目の前から脅威が去り、緊張の糸がプツンと切れて、アウルは思わずため息を吐き出す。
するとクロウがこちらの頭に手を置いてきて、「よく頑張ったな」と言ってくれて、アウルは達成感に似た気持ちに満たされたのだった。
その後、ふたりは従者を連れて屋敷へと帰っていく。
帰り道でもクロウは手を繋ぎ続けてくれて、再び領民たちから奇怪な目を向けられることになった。
それでもクロウは手を離さない。怖い思いをしたから少しでも心を和らげるために、という意思を感じる。
そんな優しさを受けて、アウルは不意に罪悪感を募らせてしまった。
「……ごめんなしゃい」
「なぜアウルが謝るんだ?」
「だって、みんなにめいわくかけた……」
今もこうして領都の人たちから視線を集めてしまっている。
しかしクロウはなんでもなさそうに肩を竦めると、言い聞かせるように慰めてくれた。
「迷惑をかけてきたのはアウルの父と母だろう。アウル自身はなにも悪くないではないか」
「でも、ぼくのせいであのひとたち、クロウおにいしゃまの町にきたから」
悪いのはあの人たち。そう頭ではわかっていても募る罪悪感は簡単に抑えることができない。
そして改めてこれだけは聞いておかなければならないと思い、アウルは意を決してクロウに問いかけた。
「ぼく、ここにいてもいいんでしゅか?」
ここまで迷惑をかけてしまった。
クロウの貴重な時間を奪ってしまった。
だからここにいてはいけないのではないかと思ってしまった。
そう尋ねられたクロウは、心なしか微笑み、嬉しい答えを返してくれた。
「好きなだけいるといい」
「……」
「アウル自身が迷惑をかけてしまったと罪悪感を抱くのは、もう勝手にすればいいさ。そしてその償いをしたいというのであれば、むしろうちの屋敷にいてくれ」
「……どうしてでしゅか?」
「アウルがうちに来てから、屋敷の雰囲気がよくなったと皆が口々に言っている。それになにより、俺自身がアウルにうちにいてほしいと思っているんだ」
ちょうどその時、人気の多い通りを抜けて屋敷の門前に辿り着き、クロウが足を止めて目の前で屈む。
次いで彼はおもむろにアウルの背中に両腕を回すと、少し躊(ため)躇(ら)いがちに抱きしめてきた。
優しいその行為が、一緒にいたいという素直な彼の言葉が、弱っていたアウルの心を温かくしていく。
屋敷の雰囲気をよくすることができていて、みんながそんなことを言ってくれていたなんて、自分では気が付いていなかった。
そしてクロウが屋敷にいてほしいと思ってくれていたことに、心の底から嬉しさが湧いてくる。
「だからアウルが、一緒にいたいのはこちらの方だと奴らに言ってくれて、本当によかったと思っている」
彼は抱擁する腕にぎゅっと力を込めて、さらに身を寄せながら、あの屋敷にいてもいい理由を与えてくれた。
「これから先もずっと一緒にいてほしい。それこそが俺含め、屋敷の人間たちへの一番の恩返しになるから」
「……はい!」
実父と継母がやってきたのは思いがけない出来事だったけれど、改めてこの場所にいてもいいと言葉にしてもらうことができて、アウルは心から安堵したのだった。

