「えっ?」
改めてドレイクを見る。
するといつも眉間にシワを寄せていた奴の顔が、今だけは柔らかい笑顔に変わっていた。
敵意や悪意を感じさせないような柔和な笑み。両腕なんかも広げてみせてこれ見よがしに喜びの感情を表現している。
その姿が、アウルにはとても気持ちの悪いものに見えた。
「申し遅れましたクロウ様。私はドレイク・ダスターと申します。事前の連絡もなしに訪問する無礼、どうかお許しくださいませ」
怒声の印象しかないドレイクの声が、いかにも畏まったものになっていてアウルは激しい違和感を覚える。
まるで別人が目の前に立っているみたいだ。
なおもドレイクの違和感のあるしゃべりは続く。
「本来であれば正式に訪問の約束を取りつけてからお伺いしたかったのですが、行方知れずとなっていた愛息がこちらの領地でお世話になっていると知り、いても立ってもいられず駆けつけてきてしまいました」
「行方知れずだと?」
ここでクロウが反応を示す。
明らかにおかしな発言を受けて怪訝そうに眉を寄せていた。
「およそ二カ月ほど前でしょうか。息子を連れてガーディニア王国の王都へ赴いた際、帰りの馬車が魔物に襲われてしまいました。その時に息子が魔物に攫(さら)われ、行方不明となってしまったのです」
その際の悲しみをあらわすかのように胸に手を当て、弱々しく瞼を閉じている。
次いで目を開いてハイライトを灯らせると、歓喜に震えるように声音を一段階上げた。
「数日近隣を捜しても痕跡すら見つけられず、捜索を断念せざるを得なかったのですが、一週間ほど前にアウルの名前が綴られた情報誌の記事を見まして」
ドレイクの言葉を紡ぐように、いつの間にか立ち上がっていたヒルマイナが今度は頭を下げる。
「よもやかの有名なエグレット公爵家のご子息であるクロウ・エグレット様に、息子をお預かりいただいていたとは思いもよりませんでした。大切な愛息の面倒を見ていただいて改めて感謝申し上げます」
このふたりの思惑について、アウルはすでに悟っていた。
息子を才能がないからと家で虐げ、挙句の果てにまだ五歳の身でありながら家から追い出した薄情な実父と義母。
その事実をなかったことにして、大切な愛息が行方不明になっていたことにしたがっている。
自分たちで追い出したのではなく、あくまで事故で行方知れずになっていたと。
そしてずっと捜し続けていて、くだんの記事を見かけてようやく愛息の所在を突き止めたと。
あくまでもこいつらは、息子の身を案じていた善良な父と母を装うつもりだ。
クロウがダスター家での実態を知らないことに賭けてか。あるいはアウル自身が家を追い出されたことに気付いていないはずと思ってか。
真意は定かではなかったが、ドレイクは優しい父親を演じてアウルに手を伸ばしてくる。
「それじゃあ帰るぞアウル。お前の好きなものを屋敷でたくさん用意してあるからな」
伸ばされた手に恐怖を抱き、思わず声が出そうになったその瞬間……
「茶番はその辺にしておいたらどうだ」
クロウが凛とした声を検問所に響かせた。

