◇Clown Act◇⇩




廊下は人の気配がしなかった。


床に飛び散る生徒の臓物たち。


ひたすらにハンガリー舞曲が流れている。


ふと、祥が俺のほうを見つめてくる。



「お兄ちゃん、いまから保健室行くよ」


「保健室?どうしてだい?」


「手、怪我してるでしょ」



左手をすくい上げられる。


ああ、忘れていた。


女の幽霊に包丁を突き刺され、爪を剥がされた左手。


応急処置として巻きつけた黒布からは、ぽたぽたと絶え間なく赤い雫が垂れている。



「もう聖水はないんだから、違う方法で手当しないと。悪化しちゃうよ」


「平気だよ。俺のことはいいから祥の教室へ行こう?もともとそれが目的だったんだから」


「なに言ってるの!お兄ちゃんの怪我が優先に決まってるでしょ!」


「あ……祥」



今度は祥に手を引かれてしまう。


うれしくて胸がムズムズする。


俺のことなんて気にしなくていいのに、どうしてこんなに優しいのかな。


祥、あのね、お兄ちゃんは命なんていらないよ。


きみが生きていてくれるなら。


2年フロアを抜け、階段をおりていく。