廊下は人の気配がしなかった。
床に飛び散る生徒の臓物たち。
ひたすらにハンガリー舞曲が流れている。
ふと、祥が俺のほうを見つめてくる。
「お兄ちゃん、いまから保健室行くよ」
「保健室?どうしてだい?」
「手、怪我してるでしょ」
左手をすくい上げられる。
ああ、忘れていた。
女の幽霊に包丁を突き刺され、爪を剥がされた左手。
応急処置として巻きつけた黒布からは、ぽたぽたと絶え間なく赤い雫が垂れている。
「もう聖水はないんだから、違う方法で手当しないと。悪化しちゃうよ」
「平気だよ。俺のことはいいから祥の教室へ行こう?もともとそれが目的だったんだから」
「なに言ってるの!お兄ちゃんの怪我が優先に決まってるでしょ!」
「あ……祥」
今度は祥に手を引かれてしまう。
うれしくて胸がムズムズする。
俺のことなんて気にしなくていいのに、どうしてこんなに優しいのかな。
祥、あのね、お兄ちゃんは命なんていらないよ。
きみが生きていてくれるなら。
2年フロアを抜け、階段をおりていく。



