◯白川出版社 編集部 朝10時

山田編集長が葵を呼ぶ。

山田編集長:「葵くん、新しい仕事だ」

葵:「はい」

山田編集長:「地方の観光地の特集記事。2泊3日の取材だが、行けるか?」

葵:「もちろんです」

山田編集長:「良かった。カメラマンは隼人さんに同行してもらう」

葵:「隼人さんが?」

山田編集長:「彼、写真も得意らしい。本人が名乗り出てくれた」

葵:「そうなんですね」



○白川出版社前 昼12時

ランチに出る葵と隼人。

隼人:「取材、一緒で良かったです」

葵:「隼人さん、写真も撮れるんですね」

隼人:「趣味程度ですが」

葵:「楽しみです」

隼人:「僕も。葵さんと二人きりの旅行みたいで」

葵:「仕事ですよ」

二人、笑い合う。

その様子を、遠くから見ている人物がいる。



○神崎コーポレーション 社長室 同時刻

カウンセリングから戻った蓮。以前より落ち着いた様子。

田中秘書が報告書を持ってくる。

田中秘書:「社長、これは...」

蓮:「何だ?」

田中秘書:「葵さんの情報です。監視はやめましたが、一般的な情報として...」

蓮:「もういい。見ない」

田中秘書:「しかし、地方への取材旅行で、隼人さんと二人きりだそうです」

蓮、一瞬表情が歪む。

蓮:「...」

田中秘書:「社長?」

蓮:「関係ない。彼女の人生だ」

しかし、拳は強く握られている。



○東京駅 金曜日朝8時

新幹線のホームで待ち合わせる葵と隼人。

隼人:「おはようございます」

葵:「おはようございます」

隼人:「準備万端ですか?」

葵:「はい。楽しみです」

二人、新幹線に乗り込む。

車窓から東京が遠ざかっていく。

葵:「(久しぶりの旅行...気分転換になりそう)」



○観光地 昼12時

美しい景色の中、取材をする二人。

隼人:「こっち向いてください」

葵の写真を撮る隼人。

葵:「私じゃなくて、景色を撮ってください」

隼人:「でも、葵さんが一番綺麗だから」

葵:「もう...」

笑い合う二人。本当に楽しそう。



○旅館 夕方18時

チェックインする二人。別々の部屋。

仲居:「お部屋は隣同士になっております」

隼人:「ありがとうございます」

部屋に入る葵。窓から美しい夕日が見える。

葵:「綺麗...」

スマートフォンで写真を撮る。

ふと、蓮のことが頭をよぎる。

葵:「(あの人...今頃何してるのかな)」

すぐに首を振る。

葵:「考えないようにしなきゃ」



○旅館 食事処 夜19時

地元の料理を楽しむ二人。

隼人:「美味しいですね」

葵:「本当に。明日の記事が楽しみです」

隼人:「葵さん、最近本当に明るくなりましたね」

葵:「そうですか?」

隼人:「ええ。神崎さんから離れて、正解でしたね」

葵:「...うん」

隼人:「葵さん、一つ聞いていいですか?」

葵:「何ですか?」

隼人:「僕のこと...どう思っていますか?」

葵、驚く。



○旅館 食事処 夜19時30分

葵:「隼人さん...?」

隼人:「僕は、葵さんが好きです」

葵:「...」

隼人:「以前も言いましたが、改めて。本気で、葵さんを愛しています」

葵:「隼人さん...私...」

隼人:「答えは急ぎません。ただ、僕の気持ちを知っていてほしくて」

葵:「ありがとうございます...でも、今の私には...」

隼人:「大丈夫。待っています」

優しく微笑む隼人。



○旅館周辺 夜21時

一人で散歩する葵。考え事をしている。

葵:「隼人さん...優しくて、誠実で...」

葵:「でも、私の心は...」

自分の気持ちが分からない葵。

突然、背後から声がかかる。

男の声:「お嬢さん、一人かい?」

振り返ると、酔っ払った地元の男たち。

葵:「!」



○旅館周辺 夜21時15分

男A:「こんな夜に一人で歩いて、危ないよ」

葵:「失礼します」

逃げようとする葵。しかし、道を塞がれる。

男B:「ちょっと話そうよ」

葵:「やめてください!」

男Aが葵の腕を掴む。

葵:「離して!」

その時、後ろから声がかかる。

蓮:「彼女から手を離せ」


○旅館周辺 夜21時20分

振り返ると、蓮が立っている。

葵:「蓮さん...!? なんでここに...」

男A:「誰だお前」

蓮:「三秒以内に離せ。さもないと、後悔することになる」

男B:「脅してんのか?」

蓮、冷静に携帯を取り出す。

蓮:「警察を呼ぶ。それとも、今すぐ離れるか」

男たち、蓮の迫力に押され、葵を離す。

男A:「ちっ、運がいいな」

逃げていく男たち。

葵、その場に座り込む。



○旅館周辺 夜21時25分

蓮:「大丈夫?」

葵:「はい...ありがとうございました」

蓮:「怪我は?」

葵:「ありません...でも、なんでここに?」

蓮、少し困った表情。

蓮:「偶然...この辺りに用事があって」

葵:「偶然...?」

信じていない葵。

蓮:「いや、嘘だ」

葵:「え?」

蓮:「心配で...つい...」

葵:「また監視を...?」

蓮:「違う! 偶然情報を耳にして、心配になっただけだ」



○旅館周辺のベンチ 夜21時40分

ベンチに座る二人。

蓮:「ごめん。また君の自由を侵してしまった」

葵:「...」

蓮:「でも、君が危険な目に遭うかもしれないと思ったら、いてもたってもいられなくて」

葵:「カウンセリング、受けてるんじゃないんですか?」

蓮:「受けている。でも...君のこととなると、理性が効かない」

葵:「蓮さん...」

蓮:「わかってる。僕は病気だ。でも、治したい。君のために」

葵、蓮の真剣な表情を見る。

蓮:「もう帰る。邪魔して、すまなかった」

立ち上がる蓮。

葵:「待って」



○旅館周辺のベンチ 夜21時50分

葵:「ありがとうございました。助けてくれて」

蓮:「...当然のことをしただけだ」

葵:「でも...」

蓮:「葵、一つだけ聞いていい?」

葵:「何ですか?」

蓮:「隼人と...うまくいってる?」

葵、驚く。

葵:「それは...」

蓮:「いや、聞くべきじゃなかった。ごめん」

葵:「隼人さんは...いい人です」

蓮:「そうか」

葵:「でも...」

蓮:「でも?」

葵:「まだ...答えは出してないです」

蓮、少しだけ表情が明るくなる。


○旅館前 夜22時

旅館まで送る蓮。

蓮:「ここまでで」

葵:「はい」

蓮:「気をつけて。明日も」

葵:「...蓮さん」

蓮:「はい?」

葵:「カウンセリング、頑張ってください」

蓮、優しく微笑む。

蓮:「ありがとう。君のために、頑張る」

葵:「自分のために、頑張ってください」

蓮:「...そうだな」

蓮、去っていく。

葵、その背中を見送る。

葵:「(変わろうとしてる...のかな)」



○旅館ロビー 夜22時10分

旅館に戻ると、隼人が待っていた。

隼人:「葵さん!心配しました」

葵:「ごめんなさい。散歩してて...」

隼人:「何かあったんですか? 顔色が...」

葵:「ちょっとトラブルが...でも大丈夫です」

隼人:「トラブル? 誰かに?」

葵:「もう解決しました」

隼人、葵の様子から何かを察する。

隼人:「もしかして...神崎さん?」

葵、黙る。

隼人:「やっぱり...彼、ここに来てるんですか?」

葵:「偶然...」

隼人:「偶然なわけないでしょう」



○旅館ロビー 夜22時20分

隼人:「許せない。またつけ回してきたんですか」

葵:「違うんです。たまたま...」

隼人:「葵さん、彼をまだ庇うんですか?」

葵:「庇ってなんか...」

隼人:「僕は...もう我慢の限界です」

葵:「隼人さん...」

隼人:「明日、彼に会って話をつけます」

葵:「やめてください。余計にこじれます」

隼人:「でも、このままじゃ葵さんが...」

葵:「大丈夫です。お願い、何もしないで」

隼人、葵の真剣な表情を見て、黙る。

隼人:「...わかりました。でも、何かあったらすぐに言ってください」

葵:「ありがとうございます」



○葵の部屋 夜23時

ベッドに横になる葵。

葵:「蓮さん...変わろうとしてる...」

葵:「でも、また現れた...これって...」

自分の気持ちが分からない。

葵:「隼人さんは優しい...でも、心が動かない...」

葵:「私、どうしたいんだろう...」



○近くのホテル 蓮の部屋 深夜0時

窓から旅館の方を見ている蓮。

蓮:「また...彼女に会ってしまった...」

カウンセラーの言葉を思い出す。

カウンセラー(回想音声):「距離を置くことが大切です」

蓮:「わかってる...でも...」

ベッドに倒れ込む。

蓮:「葵...君を愛してる...でも、苦しめたくない...」

葛藤する蓮。



○旅館 朝7時

朝食を取る葵と隼人。

隼人:「昨日は、ごめんなさい。感情的になって」

葵:「いえ、心配してくれてありがとうございます」

隼人:「今日の取材、頑張りましょう」

葵:「はい」

表面的には普通だが、二人の間に微妙な空気。

葵の心には、蓮の姿が焼き付いている。



○東京駅 日曜日夜20時

取材から戻る葵と隼人。

隼人:「お疲れさまでした」

葵:「お疲れさまでした」

隼人:「また明日、会社で」

葵:「はい」

別れて、それぞれ帰路につく。

葵、スマートフォンを見る。蓮からのメッセージはない。

葵:「(もう...本当に諦めたのかな...)」

複雑な気持ちの葵。