○葵の新しいアパート 朝7時

目覚まし時計の音で目を覚ます葵。穏やかな表情。

葵:「おはよう...」

窓から朝日が差し込む。カーテンを開けると、美しい街並み。

葵:「ここなら...大丈夫」

朝食を作りながら、スマートフォンを見る。蓮からの連絡は1週間途絶えている。

葵:「やっと...諦めてくれたのかな」



○白川出版社 編集部 朝9時

出社する葵。明るい表情。

佐々木:「葵ちゃん、最近表情明るいね」

葵:「そう? 気のせいだよ」

佐々木:「神崎社長のこと、落ち着いた?」

葵:「うん。もう連絡も来てないし」

佐々木:「良かった。やっぱり距離を置いて正解だったね」

葵:「そうだね」

デスクに座ると、仕事に集中できる。

葵:「(やっと...普通の生活が戻ってきた)」



○神崎コーポレーション 社長室 同時刻

窓の外を見つめる蓮。やつれた様子。

田中秘書が資料を持って入ってくる。

田中秘書:「社長、会議の資料です」

蓮:「...置いておけ」

田中秘書:「社長、最近お疲れのようですが...」

蓮:「大丈夫だ」

田中秘書:「葵さんのことは...諦められたのですか?」

蓮、鋭い視線を向ける。

蓮:「諦める? そんな言葉、僕の辞書にはない」

田中秘書:「しかし...」

蓮:「ただ、方法を変えただけだ」



○カフェ 昼12時30分

ランチを取る葵と隼人。

隼人:「この間の企画、素晴らしかったですね」

葵:「ありがとうございます。隼人さんのアドバイスのおかげです」

隼人:「いえいえ。葵さんの才能ですよ」

自然な会話。隼人は適度な距離を保ちながら、葵を支えている。

隼人:「週末、美術館に行きませんか?新しい展示があるんです」

葵:「いいですね。行きたいです」

隼人:「じゃあ、土曜日に」

葵、久しぶりに心から楽しみを感じる。



○カフェ向かいのビル 昼12時45分

望遠レンズで葵と隼人を撮影している探偵。

蓮に電話で報告している。

探偵:「今日も二人で食事です」

蓮(電話音声):「...そうか」

探偵:「かなり親密に見えます」

蓮(電話音声):「写真を送れ」

探偵:「承知しました」

写真が蓮に送られる。葵の笑顔。隼人と楽しそうに話す姿。



○神崎コーポレーション 社長室 昼13時

送られてきた写真を見て、拳を握りしめる蓮。

蓮:「また...あの男...」

田中秘書を呼ぶ。

蓮:「隼人の会社への買収計画、どうなっている?」

田中秘書:「交渉中です。しかし、本社がフランスのため時間が...」

蓮:「金額を倍にしろ」

田中秘書:「倍...ですか?」

蓮:「今月中に、必ず買収しろ」

田中秘書:「承知しました」

蓮、窓の外を見る。

蓮:「邪魔者は、消す」



○隼人のオフィス 夕方17時

仕事中の隼人に、上司から電話。

上司(電話音声):「隼人、困ったことになった」

隼人:「何ですか?」

上司(電話音声):「神崎コーポレーションが、うちの会社を買収しようとしている」

隼人:「!」

上司(電話音声):「しかも、破格の金額だ。本社は前向きに検討している」

隼人:「それは...」

上司(電話音声):「もし買収されたら、君は日本にいられなくなるかもしれない」

隼人:「そんな...」

電話を切る隼人。

隼人:「神崎...!」



○葵のアパート前 夜19時

待ち合わせをしていた隼人と葵。

葵:「隼人さん、どうしたんですか?顔色が...」

隼人:「葵さん、実は...」

事情を説明する隼人。

葵:「買収...!?それって...」

隼人:「おそらく、神崎さんの仕業です」

葵:「私のせいで...またあなたに迷惑を...」

隼人:「違います。彼が異常なんです」

葵:「でも...」

隼人:「大丈夫。僕は負けません」

しかし、隼人の表情には不安が見える。



○葵のアパート 夜20時

一人、部屋で考え込む葵。

葵:「このままじゃ...隼人さんまで...」

スマートフォンを手に取る。蓮の連絡先を見る。

葵:「もう一度...話し合うべき?」

しかし、すぐに首を振る。

葵:「ダメ。話し合いで解決する相手じゃない」

美咲に電話をかける。

美咲(電話音声):「どうしたの?」

葵:「美咲、相談があるんだけど...」



○美咲のアパート 夜21時

美咲の部屋で話す二人。

美咲:「ひどい...そこまでするの?」

葵:「どうすればいいかな...」

美咲:「もう一度警察に行くしかないよ。これは明らかに嫌がらせだもん」

葵:「でも、証拠が...」

美咲:「買収の事実が証拠になるんじゃない?」

葵:「ビジネスとしては合法だから...」

美咲:「じゃあ、弁護士に相談は?」

葵:「それも考えてる...」

美咲:「葵、あなたは悪くないんだよ。逃げる必要ない」

葵:「...ありがとう」



○白川出版社前 翌朝8時30分

出社する葵。ビルの前に、蓮が立っている。

葵:「!」

立ち去ろうとする葵。

蓮:「待って」

葵:「近づかないでください」

蓮:「話を聞いてほしい」

葵:「話すことはありません」

蓮:「お願いだ。5分だけ」

葵、警戒しながらも、公共の場なら大丈夫だろうと判断。

葵:「...ここで。5分だけ」



○白川出版社前 朝8時35分

蓮:「君に会えなくて、苦しい」

葵:「それは私の問題じゃありません」

蓮:「わかっている。僕が間違っていた」

葵:「わかっているなら、なぜ隼人さんの会社を買収しようとするんですか?」

蓮、驚く。

蓮:「それは...」

葵:「やっぱり、あなたが」

蓮:「彼が君を連れていこうとしているからだ」

葵:「それは隼人さんの自由です。そして、私の自由です」

蓮:「でも...」

葵:「もう、私の人生に干渉しないでください」



○白川出版社前 朝8時45分

蓮:「じゃあ、一つだけ約束してくれ」

葵:「何ですか?」

蓮:「もし、何か困ったことがあったら、僕を頼ってほしい」

葵:「それは...」

蓮:「強制じゃない。ただの願いだ」

葵:「...できません」

蓮:「そうか...」

蓮、深く頭を下げる。

蓮:「今までのこと、本当にすまなかった」

葵:「...」

蓮:「君が幸せなら、それでいい」

そう言って、蓮は去っていく。

葵、複雑な表情でその背中を見送る。

葵:「(本当に...諦めたの?)」



○白川出版社 編集部 昼12時

同僚A:「ねえねえ、聞いた? 神崎社長、今日会社の前で葵さんに謝ってたらしいよ」

同僚B:「え、マジで?」

佐々木:「葵さん、大丈夫だった?」

葵:「うん...でも、なんか変な感じだった」

佐々木:「変な感じ?」

葵:「すごく...素直だった。今までとは違う」

佐々木:「もしかして、本当に反省したのかも?」

葵:「そうだといいけど...」



○神崎コーポレーション 社長室 昼13時

デスクに座る蓮。手には睡眠薬の瓶。

蓮:「眠れない...葵のことを考えると...」

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、午後の会議は...」

蓮:「キャンセルしろ」

田中秘書:「しかし、重要な...」

蓮:「全部キャンセルだ!」

田中秘書、驚いて出ていく。

蓮、母の写真を見る。

蓮:「母さん...僕はどうすれば...」



○美術館 土曜日14時

約束通り、美術館に来た葵と隼人。

隼人:「この絵、綺麗ですね」

葵:「本当に...」

絵画を見ながら、平和な時間を過ごす二人。

隼人:「葵さん、最近笑顔が増えましたね」

葵:「そうですか?」

隼人:「ええ。その笑顔、守りたいです」

葵:「隼人さん...」

隼人:「会社のことは、何とかします。だから、安心してください」

葵:「ありがとうございます」



○美術館 同時刻

別の階から、葵と隼人を見ている蓮。

蓮:「あんな笑顔...僕には見せてくれなかった...」

拳を握りしめる。

蓮:「僕は...本当に彼女を失ったのか...」

苦しそうな表情。

蓮:「でも...諦められない...」



○心療内科 月曜日18時

蓮がカウンセラーと話している。

カウンセラー:「神崎さん、よく来てくださいました」

蓮:「田中が勧めたので...」

カウンセラー:「今日は、あなたの気持ちを聞かせてください」

蓮:「気持ち...?」

カウンセラー:「葵さんという方への」

蓮、しばらく沈黙。

蓮:「彼女は...僕の全てです」

カウンセラー:「全て...ですか」

蓮:「彼女なしでは、生きる意味がない」

カウンセラー:「それは、健全な関係ではありませんね」

蓮:「わかっています。でも、どうすることもできない」



○心療内科 18時30分

カウンセラー:「神崎さん、あなたは愛着障害の可能性があります」

蓮:「愛着障害...?」

カウンセラー:「幼少期の母親との別離が、トラウマになっている」

蓮:「...」

カウンセラー:「そのため、大切な人を失うことへの恐怖が、異常な執着となっている」

蓮:「治りますか?」

カウンセラー:「時間はかかりますが、治療は可能です」

蓮:「...やってみます」

カウンセラー:「素晴らしい。まず、葵さんから距離を置くことが必要です」

蓮:「それは...」

カウンセラー:「できますか?」

蓮、苦しそうに頷く。

蓮:「...頑張ります」


○神崎コーポレーション 社長室 1週間後

田中秘書に指示を出す蓮。

蓮:「隼人の会社への買収、中止しろ」

田中秘書:「!本当ですか?」

蓮:「ああ。もう、彼に嫌がらせをするのはやめる」

田中秘書:「社長...」

蓮:「それから、葵の監視も全て停止しろ」

田中秘書:「承知しました」

蓮、窓の外を見る。

蓮:「これでいい...これが、彼女のためだ...」

しかし、その表情は苦しみに満ちている。



○葵のアパート 夜21時

ソファでリラックスする葵。テレビを見ている。

スマートフォンを確認する。蓮からの連絡は2週間途絶えている。

葵:「本当に...終わったのかな」

ほっとする反面、少しだけ寂しさも感じる。

葵:「(あの人...大丈夫かな)」

すぐに首を振る。

葵:「ダメダメ。考えちゃダメ」



○蓮の自宅 深夜0時

ベッドで横になる蓮。しかし、眠れない。

壁に貼っていた葵の写真を、全て剥がしている。

蓮:「これでいい...これが正しい...」

しかし、涙が溢れる。

蓮:「葵...会いたい...」

枕に顔を埋める蓮。

蓮:「でも...我慢しなければ...」

苦しみながら、距離を置く決意を守ろうとする蓮。