○葵のアパート 朝7時

目を覚ます葵。いつもと変わらない朝。

キッチンに行くと、テーブルの上の物の配置が微妙に変わっている。

葵:「あれ...? こんな置き方だったっけ...」

冷蔵庫を開けると、買った覚えのない高級な食材が入っている。

葵:「え...?これ、いつ買った...?」

不安が込み上げる。



○葵のアパート 朝7時30分

部屋を見回す葵。何か変だと感じる。

本棚の隙間に、小さな黒い物体が光っている。

葵:「これは...?」

手に取ると、小型カメラ。

葵:「嘘...!」

部屋中を探し始める。リビング、寝室、バスルーム。

次々と見つかる隠しカメラ。

葵:「何個...何個あるの...!?」

震える手で、全てのカメラを集める。テーブルの上に、5個のカメラ。

葵:「誰が...まさか...」

蓮の顔が浮かぶ。



○葵のアパート 朝8時

玄関の鍵穴を確認する葵。傷がついている。

ドアマットをめくると、そこに合鍵が隠されている。

葵:「これ...私のじゃない...!」

完全にパニックになる葵。

葵:「いつから...いつから入られていたの...?」

美咲に電話をかける。

美咲(電話音声):「もしもし? 葵?」

葵:「美咲!助けて! 部屋に隠しカメラが...!」

美咲(電話音声):「え!? 今すぐ警察に!」

葵:「うん...そうする...」



○警察署 相談室 昼11時

葵が警察官に事情を説明している。テーブルの上には隠しカメラ。

警察官:「これらは確かに盗聴・盗撮器ですね」

葵:「犯人は...多分、知っています」

警察官:「どなたですか?」

葵:「神崎蓮という人です」

警察官:「神崎...コーポレーションの?」

葵:「はい」

警察官、困った表情。

警察官:「証拠はありますか? 彼がこれを設置したという」

葵:「いえ...でも、他に心当たりが...」

警察官:「指紋を調べることはできますが、彼が直接設置したかは分かりません」

葵:「じゃあ...どうすれば」

警察官:「まず、鍵を交換してください。それから、接近禁止命令を出すこともできますが、確実な証拠が必要です」

葵:「...わかりました」



○神崎コーポレーション ロビー 昼12時30分

怒りに震えながら、蓮の会社に乗り込む葵。

受付:「申し訳ございません。社長は会議中で...」

葵:「待ちます」

30分後、ロビーに現れる蓮。葵を見て、笑顔。

蓮:「葵? どうした?」

葵:「話があります。今すぐ」

蓮の表情が変わる。葵の怒りを察する。

蓮:「...社長室へ」


○神崎コーポレーション 社長室 昼13時

社長室に入るなり、葵が隠しカメラをテーブルに叩きつける。

葵:「これ、知っていますよね!?」

蓮:「...」

葵:「私の部屋に、5個も! いつから監視していたんですか!?」

蓮:「葵、落ち着いて」

葵:「落ち着けるわけないでしょ!? これは犯罪です!」

蓮:「君を守るため...」

葵:「守る!? これが守る!?」

葵の目から涙が溢れる。

葵:「プライバシーの侵害です。ストーカーです。犯罪者です!」

蓮:「...」

葵:「寝ているところも、着替えも、全部見ていたんですか!?」

蓮:「それは...」

葵:「気持ち悪い!最低です!」



○神崎コーポレーション 社長室 昼13時15分

蓮:「違う?そんなつもりじゃ...」

葵:「じゃあ、なんのつもりですか!?」

蓮:「君の安全を確認したかっただけだ」

葵:「嘘!合鍵まで作って!」

蓮:「それは...緊急時のため...」

葵:「もう聞きたくない!」

葵、合鍵をテーブルに投げる。

葵:「これも、あなたが作ったんですよね」

蓮:「...ああ」

葵:「認めるんですね」

蓮:「隠すつもりはない。全て、君のためだった」

葵:「私のため? 私が望んだことですか!?」

蓮:「君は分かっていない。この世界がどれだけ危険か」

葵:「危険なのは、あなたです!」



○神崎コーポレーション 社長室 昼13時30分

葵:「もう二度と、私に近づかないでください」

蓮:「葵...」

葵:「会社との取引も、打ち切ってください」

蓮:「それは困る。君の会社に迷惑が...」

葵:「私が辞めます」

蓮:「!」

葵:「あなたがいる限り、私は自由に生きられない」

蓮:「待ってくれ。話し合おう」

葵:「もう話すことはありません」

葵、ドアに向かう。

蓮:「葵!」

蓮が葵の腕を掴む。

葵:「離してください!」

蓮:「お願いだ。僕を嫌いになってもいい。でも、そばにいさせてくれ」

葵:「無理です。あなたは...病気です」

蓮、ショックを受けた表情。

葵:「カウンセリングを受けてください。そして、私から離れてください」

腕を振りほどき、部屋を出る葵。



○神崎コーポレーション 社長室 昼14時

一人残された蓮。テーブルに突っ伏す。

蓮:「葵...葵...」

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、大丈夫ですか?」

蓮:「出て行け」

田中秘書:「でも...」

蓮:「出て行けと言っている!」

田中秘書、慌てて出ていく。

蓮、立ち上がり、窓ガラスを拳で殴る。

蓮:「くそっ...!」

血が流れるが、気にしない。

蓮:「僕は...間違っていたのか...?」



○美咲のアパート 夕方17時

美咲の部屋で、泣き崩れる葵。

美咲:「よく頑張ったね」

葵:「怖かった...本当に怖かった...」

美咲:「もう大丈夫。今夜はここに泊まりなよ」

葵:「ありがとう...」

美咲:「明日、鍵を交換しよう。それから、警備会社にも相談して」

葵:「うん...」

美咲:「会社も、ちゃんと説明すれば分かってくれるよ」

葵:「でも...もう辞めるつもり」

美咲:「え? なんで?」

葵:「彼との接点を、完全に断ちたいの」



○美咲のアパート 夜19時

葵のスマートフォンに隼人から電話。

隼人(電話音声):「葵さん、大丈夫ですか? 会社に来なかったと聞いて」

葵:「隼人さん...実は...」

事情を説明する葵。

隼人(電話音声):「そこまで...! 許せない!」

葵:「もう大丈夫です。距離を置くことにしたので」

隼人(電話音声):「それでも心配です。今、どこにいますか?」

葵:「友人の家に...」

隼人(電話音声):「良かった。しばらく一人にならないでください」

葵:「はい...」

隼人(電話音声):「葵さん、僕がついています。何かあったらすぐに連絡を」

葵:「ありがとうございます」



○蓮の自宅 夜21時

酒を飲みながら、モニターを見つめる蓮。しかし、カメラは全て撤去されている。

蓮:「何も見えない...葵が見えない...」

スマートフォンを取り出し、GPSアプリを開く。しかし、葵のスマートフォンの位置情報もオフになっている。

蓮:「どこだ...どこにいる...!」

探偵に電話をかける。

蓮:「葵を探せ。今すぐだ」

探偵(電話音声):「しかし、社長...」

蓮:「金はいくらでも出す。彼女を見つけろ!」

電話を切り、部屋中を歩き回る蓮。

蓮:「葵...君なしでは、僕は生きられない...」



○隼人のアパート 夜22時

隼人が上司に電話している。

隼人:「はい、日本に残りたいんです」

上司(電話音声):「でも、パリに戻る予定だろう?」

隼人:「事情が変わりました。守りたい人がいるんです」

上司(電話音声):「...わかった。手続きを進めよう」

隼人:「ありがとうございます」

電話を切り、窓の外を見る隼人。

隼人:「葵さん、僕が守ります」



○白川出版社 編集長室 翌朝10時

山田編集長に事情を説明する葵。

山田編集長:「そんなことが...」

葵:「申し訳ございません。神崎コーポレーションとの取引に影響が...」

山田編集長:「君の安全の方が大事だ」

葵:「ですが...」

山田編集長:「警察には相談したのか?」

葵:「はい。証拠不十分で、すぐには動けないと」

山田編集長:「わかった。こちらからも神崎社長に警告する」

葵:「すみません...」

山田編集長:「謝るな。君は悪くない」


○神崎コーポレーション 社長室 昼12時

山田編集長と顧問弁護士が蓮を訪問している。

山田編集長:「神崎社長、葵から事情を聞きました」

蓮:「...」

顧問弁護士:「盗撮、不法侵入。これらは明確な犯罪です」

蓮:「わかっています」

山田編集長:「今後、葵に一切接触しないでいただきたい」

蓮:「...承知しました」

顧問弁護士:「もし接触した場合、法的措置を取らせていただきます」

蓮:「わかった」

二人が出ていく。

蓮、一人になると、壁を拳で殴る。

蓮:「くそっ...!」



○葵の新しいアパート 夕方18時 1週間後

引っ越しを終えた葵。セキュリティの高いマンション。

美咲:「ここなら安心だね」

葵:「うん。会社も近いし」

美咲:「神崎さん、諦めてくれるといいけど」

葵:「...わからない。でも、もう関わりたくない」

美咲:「そうだよね」

窓から外を見る葵。

葵:「これで...やっと自由になれる」



○新しいアパートの外 夜20時

葵の新しいアパートの向かいのビル。

そこに、蓮が立っている。双眼鏡で葵の部屋を見ている。

蓮:「見つけた...」

蓮:「引っ越しても無駄だよ、葵。僕は、どこまでも追いかける」

スマートフォンで、葵の部屋の写真を撮る蓮。

蓮:「君は僕のもの。それは変わらない」



○カフェ 夜19時 翌日

隼人と会う葵。

隼人:「新しいアパート、どうですか?」

葵:「快適です。セキュリティもしっかりしているし」

隼人:「良かった。それで...相談があるんですが」

葵:「何ですか?」

隼人:「僕、日本に残ることにしました」

葵:「え? パリに戻るんじゃ...?」

隼人:「あなたを守りたいんです」

葵:「隼人さん...」

隼人:「神崎さんが諦めるとは思えない。だから、そばにいたい」

葵、隼人の優しさに涙ぐむ。

葵:「ありがとうございます...でも、迷惑を...」

隼人:「迷惑じゃありません。僕の気持ちです」



○カフェ外 夜20時

車の中から、葵と隼人を見ている蓮。

二人が笑い合っている。隼人が葵の手を握る。

蓮:「あの男...!」

ハンドルを強く握りしめる。

蓮:「また...邪魔をする...」

スマートフォンを取り出し、探偵に電話。

蓮:「隼人の全てを調べろ。弱点を見つけろ。そして...」

探偵(電話音声):「そして?」

蓮:「彼を、この街から追い出せ」


○葵の新しいアパート 夜22時

ベッドで横になる葵。安心した表情。

葵:「やっと...平和な日々が戻ってきた」

しかし、窓の外では、蓮が見ている。

蓮:「おやすみ、葵。僕の愛しい人」

蓮:「君がどれだけ逃げても、僕は追いかける。それが愛だから」

画面が暗転する。