○蓮の自宅 寝室 深夜3時

蓮が汗びっしょりで目を覚ます。荒い呼吸。

蓮:「母さん...!」

悪夢にうなされていた様子。ベッドから起き上がり、水を飲む。

手が震えている。

蓮:「また...あの夢か」


○回想:20年前 蓮の実家 夜

7歳の蓮が、母・麗子(当時30代)と一緒にリビングにいる。父の姿はない。

幼い蓮:「お母さん、お父さんはいつ帰ってくるの?」

麗子:「もう帰ってこないわ、蓮」

幼い蓮:「なんで?」

麗子:「大人の事情よ。でも大丈夫。お母さんが、蓮を守るから」

母は優しく蓮を抱きしめる。

麗子:「蓮はお母さんの宝物。何があっても、ずっと一緒よ」

幼い蓮:「うん!」


○回想:蓮の実家 様々なシーン

母と二人だけで暮らす蓮。母は昼も夜も働いて、蓮を育てている。

学校の運動会。他の子には両親がいるが、蓮には母だけ。

同級生:「蓮のお父さんは?」

幼い蓮:「いないよ」

同級生:「変なの」

泣きそうになる蓮。しかし、母が駆け寄ってくる。

麗子:「蓮!お弁当、一緒に食べましょう」

幼い蓮:「お母さん!」

母の笑顔を見て、蓮は幸せを感じる。



○回想:蓮の実家 夜 蓮10歳

深夜、電話の音で目を覚ます蓮。母の部屋から声が聞こえる。

麗子(電話音声):「もう限界です...これ以上は無理...」

泣いている母の声。

麗子(電話音声):「蓮のためです。お金が必要なんです」

翌朝、母は何事もなかったように笑顔。

麗子:「おはよう、蓮。朝ごはんできてるわよ」

幼い蓮:「お母さん、昨日...」

麗子:「何?」

幼い蓮:「...ううん、何でもない」



○回想:街中 夕方 蓮12歳

母と手を繋いで歩いている蓮。母は疲れた様子だが、笑顔を絶やさない。

麗子:「今日は蓮の好きなハンバーグよ」

幼い蓮:「やった!」

その時、後ろから複数の男たちが近づいてくる。

男A:「麗子さん、話がある」

麗子:「!あなたたちは...」

母が蓮を背後に隠す。

男A:「金を返してもらおうか」

麗子:「待ってください。来月には必ず...」

男B:「もう待てない」

男たちが麗子を掴む。

幼い蓮:「お母さん!」

麗子:「蓮、走って!警察に行きなさい!」

幼い蓮:「やだ! お母さんと一緒にいる!」


○回想:路地裏 夕方

男たちと揉み合う母。蓮は必死に母にしがみつく。

麗子:「蓮を離して! この子には関係ないわ!」

男A:「じゃあ、金を出せ!」

麗子:「今はない!」

男Aが手を上げる。その手が、蓮に向かう。

母が蓮を庇い、代わりに殴られる。

幼い蓮:「お母さん!!」

母は倒れ、頭を強く打つ。血が流れる。

麗子:「蓮...逃げて...」

幼い蓮:「お母さん!お母さん!!」

男たちは慌てて逃げる。

救急車が来るが、母は意識を失ったまま。


○回想:病院 ICU前 数日後

医師が出てくる。親戚らしき女性と蓮がいる。

医師:「残念ですが...」

親戚:「そんな...」

幼い蓮:「お母さんは? お母さんに会わせて!」

医師:「坊や...お母さんは天国に行ったんだよ」

幼い蓮:「嘘だ!嘘だ!!」

泣き叫ぶ蓮。

幼い蓮:「お母さん...お母さん...!」



○蓮の自宅 リビング 深夜3時30分

現在の蓮が、母の写真を見つめている。

蓮:「母さん...僕は、あの時何もできなかった」

写真の中の母は、優しく微笑んでいる。

蓮:「でも、今は違う。僕は力を手に入れた。二度と、大切な人を失わない」

葵の写真を手に取る。

蓮:「母さんに似ている...優しい笑顔。守らなければ」



○葵のアパート 朝7時

目を覚ます葵。今日は隼人とのイベントの日。結局、参加することにした。

葵:「久しぶりに楽しめるかな」

身支度を整える葵。

しかし、玄関を開けると、またも荷物が置かれている。

葵:「また...」

開けると、高級なスカーフ。カードには「今日は楽しんで。でも、気をつけて。蓮」

葵:「なんで今日のことを...?」

不安が込み上げる。



○都内ホテル ファッションイベント会場 昼12時

華やかなファッションショー。隼人と葵が会場に入る。

隼人:「わあ、すごい人ですね」

葵:「本当に。ありがとうございます、誘ってくださって」

隼人:「いえ、僕も楽しみです」

二人は展示を見て回る。隼人は適度な距離を保ち、紳士的。

隼人:「このデザイン、葵さんに似合いそうですね」

葵:「そうですか?」

隼人:「ええ。今度、試着してみませんか?」

葵:「いいんですか?」

隼人:「もちろん。仕事抜きで、個人的に」

葵、嬉しそうに笑う。

しかし、その様子を遠くから撮影している人物がいる。


○イベント会場 別の階 同時刻

蓮が双眼鏡で葵と隼人を見ている。

蓮:「笑っている...あの男と」

田中秘書が隣にいる。

田中秘書:「社長、これ以上は...」

蓮:「黙っていろ」

葵と隼人が並んで歩く姿を見て、蓮の表情が歪む。

蓮:「あの男を、今すぐ葵から遠ざけろ」

田中秘書:「どのように?」

蓮:「手段は問わない。今日中にだ」



○イベント会場 外 昼14時

休憩で外に出た隼人。タバコを吸っている。

そこへ、スーツ姿の男たちが近づく。

男A:「隼人さんですね」

隼人:「はい、どちら様ですか?」

男A:「神崎コーポレーションの者です。少しお話が」

隼人:「神崎...?」

男たちに囲まれる隼人。

男A:「葵さんという女性から、距離を置いていただきたい」

隼人:「なぜですか?」

男B:「我々の社長の、大切な方です」

隼人:「それは...葵さんの意思ですか?」

男A:「関係ない。従っていただきます」

隼人:「断ります」

男Aが隼人の襟を掴む。

男A:「従わないと、あなたの会社にも影響が出るかもしれませんよ」

隼人:「それは脅しですか?」

男B:「忠告です」



○イベント会場内 カフェスペース 昼14時30分

戻ってきた隼人。表情が硬い。

葵:「隼人さん、どうかしました?」

隼人:「...いえ、何でも」

葵:「顔色が悪いですよ」

隼人:「大丈夫です。葵さん...ちょっと聞いていいですか?」

葵:「はい」

隼人:「神崎蓮という人と、どういう関係なんですか?」

葵、驚く。

葵:「なぜその名前を...?」

隼人:「さっき、その人の部下に会いまして」

葵:「!」

隼人:「僕に、あなたから離れろと」

葵、顔が青ざめる。

葵:「すみません...私のせいで...」

隼人:「いえ、謝らないでください。でも、もし危険な状況なら、警察に相談した方が...」

葵:「彼は...ただのクライアントです。でも、少し...」

隼人:「執着されている?」

葵:「...はい」



○イベント会場内 カフェスペース 昼15時

隼人:「葵さん、僕は引き下がりません」

葵:「でも...」

隼人:「あなたは、誰かの所有物じゃない。自由に生きる権利があります」

葵:「隼人さん...」

隼人:「もし必要なら、僕が守ります」

葵、隼人の言葉に涙ぐむ。

葵:「ありがとうございます...でも、巻き込みたくないんです」

隼人:「もう巻き込まれています。なら、一緒に戦いましょう」

葵、初めて本当に味方ができたと感じる。



○神崎コーポレーション 社長室 夕方17時

部下から報告を受ける蓮。

男A:「隼人は、引き下がらないと」

蓮:「何?」

男A:「葵さんを守ると言っています」

蓮、デスクを叩く。

蓮:「あの男...!」

男A:「どうしますか?」

蓮:「エトワールとの取引、全て中止しろ」

男A:「しかし、それは...」

蓮:「今すぐだ! そして、隼人の本社に圧力をかけろ」

男A:「承知しました」

蓮、窓の外を見る。

蓮:「邪魔をする者は、全て排除する」



○駅前 夜19時

イベントが終わり、駅まで歩く葵と隼人。

隼人:「葵さん、これからどうしますか?」

葵:「どうって...」

隼人:「神崎さんのこと」

葵:「正直、わからないんです。何をすればいいのか」

隼人:「一つだけ、言ってもいいですか?」

葵:「はい」

隼人:「僕は...葵さんのことが好きです」

葵、驚いて立ち止まる。

隼人:「仕事を通して知り合って、あなたの真面目で優しい性格に惹かれました」

葵:「隼人さん...」

隼人:「だから、あなたが苦しんでいるのを見たくない。力になりたいんです」

葵:「ありがとうございます...でも、今の私には...」

隼人:「答えは急ぎません。ただ、僕はあなたの味方だということを覚えていてください」



○駅前 夜19時15分

車の中から、葵と隼人の会話を見ている蓮。

二人が何かを話している。隼人が真剣な表情。葵が驚いた顔。

蓮:「何を話している...?」

そして、隼人が葵の手を優しく握る。

蓮:「!!」

理性が崩壊しそうになる蓮。

蓮:「葵...君は...僕のものなのに...!」

車のハンドルを強く握りしめる。



○蓮の自宅 夜22時

部屋で一人、母の写真を見つめる蓮。

蓮:「母さん...僕はどうすればいい?」

蓮:「あの人を失いたくない。でも、僕を拒絶する」

母の写真が、優しく微笑んでいる。

蓮:「母さんは言った。『大切な人は、何があっても守りなさい』って」

立ち上がり、窓の外を見る蓮。

蓮:「わかった。もう、遠慮はしない」

葵のアパートの方向を見る。

蓮:「君を完全に僕のものにする。それが、君を守る唯一の方法だから」


○葵のアパート 深夜0時

眠っている葵。平和な寝顔。

しかし、部屋の隅の隠しカメラが、その様子を映し出している。

画面の向こうで、蓮が見ている。

蓮:「おやすみ、葵。明日から、僕たちの関係は変わる」

蓮:「君がどんなに拒んでも、僕は諦めない。それが愛だから」

画面が暗転する。