○神崎家 リビング 午前7時

朝日が差し込む。

ソファで眠っている葵。お腹が大きい。妊娠8ヶ月。

蓮が毛布をかけてあげる。

蓮:「(また、ソファで寝ちゃったのか)」

蓮:「葵、ベッドで寝ないと」

葵:「んー...おはようございます...」

蓮:「おはよう。体、大丈夫?」

葵:「はい。赤ちゃん、元気に動いてます」

蓮:「良かった」

葵のお腹に手を当てる蓮。

蓮:「おはよう、ちびちゃん」

お腹の中から、赤ちゃんが蹴る。

葵:「あ、蹴りました」

蓮:「本当だ。元気だね」



○神崎家 ダイニング 午前8時

蓮が朝食を作っている。

葵:「ごめんなさい、私が作るべきなのに」

蓮:「いいよ。君は赤ちゃんを育ててるんだから」

葵:「でも...」

蓮:「無理しないで。座ってて」

葵:「ありがとうございます」

テーブルに料理を並べる蓮。

蓮:「はい、できた」

葵:「美味しそう」

蓮:「いただきます」

葵:「いただきます」



○神崎家 玄関 午前9時

出勤する蓮。

蓮:「じゃあ、行ってくる」

葵:「いってらっしゃい」

蓮:「今日、検診だよね?」

葵:「はい。午後から」

蓮:「一緒に行きたいけど...会議が...」

葵:「大丈夫です。お母さんが付き添ってくれますから」

蓮:「そっか。よろしく伝えて」

葵:「はい」

抱きしめる蓮。

蓮:「愛してる」

葵:「私も」

キスをして、蓮が出ていく。



○病院 産婦人科 午後2時

恵子と一緒に検診に来ている葵。

医師:「順調ですよ。赤ちゃんも元気です」

葵:「良かった」

医師:「性別、聞きますか?」

葵:「はい」

医師:「男の子ですよ」

葵:「!男の子...」

恵子:「良かったわね」

葵:「蓮さん、喜ぶだろうな」

医師:「予定日は来月末ですね」

葵:「はい。楽しみです」



○神崎コーポレーション 社長室 午後3時

蓮に電話する葵。

葵(電話音声):「蓮さん、検診終わりました」

蓮:「どうだった?」

葵(電話音声):「順調です。それと...」

蓮:「うん?」

葵(電話音声):「性別、わかりました」

蓮:「本当!?男の子? 女の子?」

葵(電話音声):「男の子です」

蓮:「! 男の子...!」

葵(電話音声):「パパですよ」

蓮:「パパか...嬉しいな...」

葵(電話音声):「名前、考えないとですね」

蓮:「うん。今日、一緒に考えよう」



○神崎家 リビング 午後8時

ソファに並んで座る二人。

蓮:「名前、どうしようか」

葵:「何かいい名前ありますか?」

蓮:「そうだな...優しい子に育ってほしいから、『優』とか」

葵:「いいですね」

蓮:「『優人』とか、『優太』とか」

葵:「優しい人...素敵です」

蓮:「じゃあ、優人にしよう」

葵:「はい」

蓮:「神崎優人」

葵:「いい名前です」

お腹を撫でる葵。

葵:「優人くん、パパとママが名前をつけたよ」



○神崎家 リビング 午後9時

葵:「蓮さん、思えば色々ありましたね」

蓮:「ああ」

葵:「最初に会った時、怖かった」

蓮:「...ごめん」

葵:「でも、今は幸せです」

蓮:「僕も」

葵:「あの時、逃げなくて良かった」

蓮:「待っていてくれて、ありがとう」

葵:「待った甲斐がありました」

蓮:「これからも、ずっと一緒だね」

葵:「はい。三人で」



○神崎家 リビング 午後10時

蓮:「もし、過去の自分に会えたら、何て言うかな」

葵:「何ですか、急に」

蓮:「あの時の僕に、言いたいことがある」

葵:「...」

蓮:「『それは愛じゃない』って」

葵:「...」

蓮:「『監視じゃなく、信じろ』って」

葵:「蓮さん...」

蓮:「『束縛じゃなく、自由を与えろ』って」

葵:「もう、わかってますよね?」

蓮:「ああ。君が教えてくれた」

葵:「私は何もしてません」

蓮:「いや、君がいたから変われた」



○心療内科 カウンセリングルーム 翌週

久しぶりにカウンセラーを訪ねる蓮。

カウンセラー:「お久しぶりですね」

蓮:「はい。報告に来ました」

カウンセラー:「どうぞ」

蓮:「妻が妊娠しました。来月、父親になります」

カウンセラー:「おめでとうございます!」

蓮:「ありがとうございます」

カウンセラー:「不安は?」

蓮:「正直、あります。でも、乗り越えられると思います」

カウンセラー:「素晴らしい」

蓮:「先生のおかげです」

カウンセラー:「いいえ。あなたの努力です」

蓮:「先生、もうここに来る必要はないですよね?」

カウンセラー:「ええ。あなたは完全に回復しました」

蓮:「本当ですか?」

カウンセラー:「はい。もう、執着ではなく愛している」

蓮:「...ありがとうございます」

カウンセラー:「これから、父親として頑張ってください」

蓮:「はい」

カウンセラー:「幸せになってください」

蓮:「もう、幸せです」

握手する二人。

蓮:「本当にありがとうございました」

カウンセラー:「こちらこそ」



○病院 分娩室前 1ヶ月後 午後10時

葵の陣痛が始まり、病院に来ている蓮。

分娩室の前で待つ。

蓮:「葵...頑張って...」

恵子、千代子、美咲、田中秘書も駆けつけている。

恵子:「大丈夫よ。葵は強い子だから」

千代子:「蓮、落ち着いて」

蓮:「はい...」

しかし、明らかに緊張している。

美咲が手を握る。

美咲:「大丈夫。葵は絶対に大丈夫」

蓮:「...ありがとう」



○病院 分娩室前 深夜1時

扉が開き、看護師が出てくる。

看護師:「おめでとうございます。元気な男の子です」

蓮:「!本当ですか!?」

看護師:「はい。母子ともに健康です」

蓮:「良かった...!」

崩れ落ちる蓮。

恵子:「良かったわね」

千代子:「おめでとう、蓮」

美咲:「やったね!」

田中秘書:「おめでとうございます」

涙を流す蓮。

蓮:「葵...ありがとう...」



○病院 病室 深夜2時

病室に入る蓮。

ベッドで赤ちゃんを抱いている葵。

葵:「蓮さん...」

蓮:「葵...お疲れ様...」

葵:「会いに来てくれましたね」

蓮:「当然だよ」

赤ちゃんを見る蓮。

蓮:「これが...優人...」

葵:「はい。私たちの息子です」

蓮:「小さい...」

葵:「抱いてみますか?」

蓮:「いいの?」

葵:「もちろん。パパですから」



○病院 病室 深夜2時15分

恐る恐る赤ちゃんを抱く蓮。

蓮:「優人...パパだよ...」

赤ちゃんが目を開ける。

蓮:「! 見てる...」

葵:「パパの顔、覚えてね」

蓮:「優人...」

涙が溢れる蓮。

蓮:「ありがとう...生まれてきてくれて...」

葵:「...」

蓮:「君を、絶対に幸せにする」

蓮:「パパとママで、守るから」

葵:「はい」

蓮:「愛してる、優人」



○病院前 1週間後

退院する葵と優人。

蓮が車で迎えに来ている。

蓮:「お疲れ様。帰ろう」

葵:「はい」

車に乗り込む三人。

蓮:「これから、三人の生活だね」

葵:「はい。楽しみです」

蓮:「大変だと思うけど」

葵:「二人でなら、大丈夫です」

蓮:「そうだね」

車を発進させる蓮。



○神崎家 リビング 午後8時

優人をあやす蓮。

蓮:「よしよし、泣かないで」

しかし、泣き止まない。

蓮:「葵、どうしよう...」

葵:「オムツかもしれません」

蓮:「そうか」

オムツを替える蓮。

不慣れだが、一生懸命。

蓮:「これでいいかな...」

優人、泣き止む。

蓮:「良かった」

葵:「パパ、上手ですね」

蓮:「本当?」

葵:「はい」



○神崎家 リビング 午後10時

優人が眠っている。

ソファに座る蓮と葵。

葵:「今日も無事に一日が終わりましたね」

蓮:「ああ」

葵:「大変だけど、幸せです」

蓮:「僕も」

葵:「こんな日が来るなんて、思ってませんでした」

蓮:「僕もだ」

葵:「あの時は...」

蓮:「ああ。執着していた」

葵:「でも、今は違う」

蓮:「今は、本当に愛してる」

葵:「私も愛してます」


○墓地 日曜日午後2時

優人を連れて、蓮の母の墓参り。

蓮:「母さん、報告に来た」

葵:「...」

蓮:「息子が生まれました。優人です」

優人を抱き上げる。

蓮:「見て、母さん。可愛いでしょ」

葵:「お義母様、私たちの息子です」

蓮:「母さんに似て、優しい子に育つと思う」

葵:「そうですね」

蓮:「母さん、僕は幸せです」

葵:「見守っていてください」

風が吹く。桜の花びらが舞う。

蓮:「母さんも、喜んでくれてるね」

葵:「はい」



○神崎家 リビング 午後3時 優人1歳

歩き始めた優人。

優人:「パパ!」

蓮:「おお、来い来い!」

優人がよちよち歩いて蓮の元へ。

蓮:「すごいすごい!」

抱き上げる蓮。

葵:「もう歩けるようになったんですね」

蓮:「成長が早いね」

葵:「あなたに似て、賢いんですよ」

蓮:「いや、君に似たんだよ」

葵:「ふふ」

笑い合う二人。

優人も笑っている。

優人:「ママ!」

葵:「はーい」

幸せな家族の時間。



○神崎家 屋上テラス 夕暮れ時

夕日を見る三人。

蓮:「綺麗だね」

葵:「はい」

優人:「きれー!」

蓮:「葵、覚えてる?? 初めて会った日」

葵:「はい。雨の夜でした」

蓮:「君を助けた」

葵:「そして、『君は僕のものだ』って言われました」

蓮:「恥ずかしいな...」

葵:「でも、今思えば、あれが始まりだったんですね」

蓮:「ああ」

葵:「あの日から、私たちの物語が始まった」

蓮:「そして、今ここにいる」

葵:「はい」

蓮:「愛してる、葵」

葵:「愛してます、蓮さん」

優人:「パパ、ママ、だいすき!」

三人、抱き合う。

夕日が、三人を優しく照らす。



ナレーション(葵の声)

「私たちの物語は、狂気的な執着から始まった。

監視され、束縛され、恐怖を感じた日々。

でも、彼は変わった。本気で変わろうとした。

執着は愛に変わり、支配は尊重に変わった。

多くの試練を乗り越えて、私たちは本当の愛を見つけた。

今、私たちは幸せだ。

彼と、息子と、三人で。

これからも、きっと色々なことがあるだろう。

でも、一緒なら乗り越えられる。

だって、私たちの愛は、試練を経て強くなったのだから。

これが、私たちの愛の形──」


○神崎家 屋上テラス 夜 

星空の下、三人が手を繋いでいる。

蓮:「これから、どんな人生になるかな」

葵:「わかりません。でも、楽しみです」

蓮:「そうだね」

葵:「あなたと優人と、三人で」

蓮:「ああ。家族だから」

葵:「はい。家族です」

三人、星空を見上げる。