○葵のアパート前 朝7時

葵が出勤のため玄関を開けると、ドアの前に小さな箱が置かれている。

葵:「え...?」

箱を開けると、葵の好きなブランドのマフラーが入っている。カードには「寒くなってきたから。体調に気をつけて。蓮」と書かれている。

葵:「どうして...私の好みを...?」

周囲を見回すが、誰もいない。

葵:「(気持ち悪い...)」



○駅前カフェ 朝8時

いつも立ち寄るカフェで朝食を取る葵。カウンターでコーヒーを注文している。

店員:「いつものミルク多めのカフェラテですね」

葵:「はい」

後ろから声がかかる。

蓮:「おはよう、葵」

振り返ると、蓮が立っている。

葵:「!蓮さん...どうしてここに?」

蓮:「偶然だよ。僕もここのコーヒーが好きでね」

葵:「そうなんですか...」

蓮:「一緒に座らない?」

葵:「でも、会社が...」

蓮:「まだ時間はあるだろう? 5分だけ」

断り切れず、テーブルに座る二人。

蓮:「マフラー、気に入った?」

葵:「あれ...蓮さんだったんですね」

蓮:「この前のペンを受け取らなかったから、別のものを」

葵:「でも、どうして私の好きなブランドを...」

蓮:「前に雑誌の取材で見たことがある。君に似合うと思って」

葵:「そうですか...」

納得できない表情の葵。

蓮:「ところで、今日の予定は?」

葵:「普通に仕事です」

蓮:「夜は?」

葵:「友達と会う予定です」

蓮の表情が一瞬曇る。

蓮:「そう。楽しんできて」



○白川出版社 編集部 朝9時30分

葵のデスクに、またも花束が届いている。今度は薔薇の花束。

佐々木:「また? すごいね」

葵:「...」

佐々木:「でも、毎日こんなに送られてきたら、ちょっと重くない?」

葵:「そうなんです。どう断ればいいか...」

山田編集長:「葵くん、ちょっといいか」

編集長室に呼ばれる葵。


○白川出版社 編集長室 朝9時45分

山田編集長:「神崎社長から、君への指名が多いんだが」

葵:「はい...」

山田編集長:「いいことだ。大型クライアントだからな。でも...」

葵:「でも?」

山田編集長:「あまり個人的に深入りしない方がいい。ビジネスとプライベートは分けておけ」

葵:「もちろんです。私もそう思っています」

山田編集長:「ならいい。気をつけてな」

葵:「ありがとうございます」


○白川出版社前 昼12時30分

ランチに出る葵と佐々木。いつものラーメン店に向かう。

店の前に、蓮が立っている。

葵:「また...」

蓮:「やあ。ちょうどこの辺りで会議があってね」

佐々木:「すごい偶然ですね!」

蓮:「良かったら、一緒にどうですか?」

佐々木:「いいんですか?」

葵:「佐々木さん...」

蓮:「もちろん。僕も一人で食べるより楽しい」

結局、三人でランチすることに。

店内で、蓮は葵の好みを完璧に把握している。

蓮:「葵、いつもの味噌ラーメン? ネギ抜きだったよね」

葵:「!なんで知ってるんですか?」

蓮:「この前、話していたような気がして」

葵:「そんな話、してませんけど...」

蓮:「そう?勘違いかな」

佐々木は気づいていないが、葵は明らかに不安を感じている。





○神崎コーポレーション 蓮の社長室 午後2時

蓮がパソコンの画面を見ている。画面には、葵のアパート、会社前、よく通る道のライブ映像が分割表示されている。

田中秘書:「社長、午後の会議が...」

蓮:「わかっている」

画面を閉じる蓮。

田中秘書:「社長...あまり深入りされない方が...」

蓮:「田中さん、君は僕の秘書だ。余計な心配はいらない」

田中秘書:「失礼しました」

田中秘書が出ていく。

再び画面を開く蓮。葵が会社に戻る姿が映っている。

蓮:「君の全てを知りたい。君の全てを守りたい」



○渋谷 カフェ前 夜19時

友人の美咲と待ち合わせている葵。

美咲:「葵!久しぶり!」

葵:「美咲、ごめん待った?」

美咲:「全然。それより、例の社長どう?」

葵:「それがね...」

カフェに入ろうとすると、向かいのビルの陰から蓮が二人を見ている。望遠カメラで撮影している。

蓮:「友達か。誰だろう」



○渋谷 カフェ内 夜19時15分

美咲:「それ完全にストーカーじゃん!」

葵:「でも、証拠がないのよ。全部偶然って言われたら...」

美咲:「偶然にしては多すぎるでしょ」

葵:「それに、仕事のクライアントだし。変に騒いで、会社に迷惑かけたくないし」

美咲:「でも危ないって。警察に相談した方がいいよ」

葵:「まだ何もされてないから...」

美咲:「何かされてからじゃ遅いんだよ!」

葵、うなだれる。

葵:「どうすればいいんだろう...」

美咲:「とりあえず、防犯ブザー持ち歩いて。それと、一人で夜道歩かないこと」

葵:「うん...」



○渋谷駅 夜21時

美咲と別れ、帰路につく葵。駅のホームで電車を待つ。

少し離れたところに、帽子とマスクをした蓮が立っている。

電車が来て、葵が乗り込む。蓮も同じ車両に乗る。

葵は気づいていない。スマートフォンを見ている。

蓮は葵を見つめ続ける。

蓮:「(友達と何を話していたんだろう。僕のこと、話していたかな)」


○葵のアパート 夜22時

部屋に入る葵。疲れた様子でソファに座る。

葵:「はぁ...」

テーブルの上に、また小さな箱が置かれている。

葵:「え...? いつの間に...」

箱を開けると、葵の好きなブランドの紅茶セットが入っている。カードには「お疲れ様。これで一息ついて。蓮」

葵:「どうやって部屋に...?」

恐怖で震える葵。すぐに玄関の鍵を確認する。壊された形跡はない。

葵:「合鍵...?まさか...」

美咲に電話をかけようとするが、躊躇する。

葵:「証拠...証拠がないと...」



○神崎コーポレーション 社長室 夜23時

パソコンの画面に、葵の部屋の様子が映っている。隠しカメラの映像。

恐怖で震える葵の姿を見て、蓮は心配そうな表情。

蓮:「怖がらせてしまった...でも、君を思う気持ちを形にしたかっただけなのに」

田中秘書から電話がかかってくる。

田中秘書(電話音声):「社長、明日の合鍵の件ですが...」

蓮:「ああ、管理会社から手に入れた。問題ない」

田中秘書(電話音声):「...承知しました」

電話を切り、再び画面を見る蓮。

蓮:「君が安心して暮らせるように、僕がそばにいる。それが愛だから」


○白川出版社前 朝8時30分

出社する葵。疲れた表情。睡眠不足のようだ。

蓮が待っている。

蓮:「おはよう、葵。顔色が悪いけど、大丈夫?」

葵:「...蓮さん」

蓮:「どうかした?」

葵:「昨日...部屋に荷物が置いてありました」

蓮:「ああ、紅茶。気に入った?」

葵:「どうやって部屋に入ったんですか?」

蓮:「宅配業者に頼んだよ。管理人さんが受け取って、部屋に入れてくれたそうだ」

葵:「本当ですか...?」

蓮:「もちろん。まさか、僕が勝手に入ったと思った?」

葵、言葉に詰まる。

蓮:「葵、僕は君を大切に思っている。でも、君が嫌がることはしない」

葵:「じゃあ...もう贈り物はやめてください。重いです」

蓮の表情が曇る。

蓮:「重い...?」

葵:「はい。ありがたいですけど、困ります」

蓮:「...わかった。ごめん」

寂しそうな表情の蓮。

蓮:「でも、君のことは諦めない」

葵:「え?」

蓮:「君が僕を受け入れるまで、待つ。どれだけ時間がかかっても」




○白川出版社 給湯室 昼12時

同僚A:「葵さん、神崎社長と付き合ってるんだって?」

葵:「違います! そんな関係じゃありません」

同僚B:「でも、毎日会ってるじゃん」

佐々木:「二人とも、仕事の話でしょ」

同僚A:「にしては、社長の目が本気すぎるよ」

葵:「...」

噂が広がっていることに、葵はさらに追い詰められる。



○葵のアパート前 夜20時

帰宅する葵。玄関の前に、大きな段ボール箱が置かれている。

葵:「また...」

箱を開けると、高級な食材やワイン、調理器具が詰まっている。

カードには「ちゃんと食べて。君の健康が心配だから。蓮」

葵:「もうやめて...!」

その時、背後から声がかかる。

蓮:「葵」

振り返ると、蓮が立っている。

葵:「!どうしてここに...」

蓮:「荷物を届けに来た」

葵:「重いからやめてくださいって言いましたよね!?」

蓮:「でも、君は痩せている。ちゃんと食べていないだろう?」

葵:「それは私の勝手です!」

蓮:「君の体が心配なんだ」

葵:「もう...近づかないでください!」



○葵のアパート前 夜20時15分

蓮:「わかってる。僕が怖いんだろう?」

葵:「...」

蓮:「でも、僕は君を傷つけるつもりはない。ただ、愛しているだけだ」

葵:「これは愛じゃありません」

蓮:「じゃあ、何だと言うんだ?」

葵:「監視です。束縛です」

蓮、痛そうな表情。

蓮:「僕は...ただ君を守りたいだけなんだ」

葵:「私は守られたくありません。自由に生きたいんです」

蓮:「自由...君一人では危険だ。この世界は」

葵:「それでも、私の人生は私のものです」

蓮、沈黙する。

蓮:「...わかった」

葵:「本当ですか?」

蓮:「でも、約束して。何かあったら、僕を頼ると」

葵:「...はい」

蓮、去っていく。葵は安堵のため息。

しかし、角を曲がった蓮は、スマートフォンの監視アプリを開く。葵の部屋の映像が映っている。

蓮:「君を手放すなんて、できるわけがない」




○葵のアパート 夜21時

部屋でくつろぐ葵。美咲に電話している。

葵:「なんとか、距離を置くことになったよ」

美咲(電話音声):「本当?良かった!」

葵:「でも、本当に諦めてくれるかな...」

美咲(電話音声):「様子見てみなよ。もし続くようなら、警察ね」

葵:「うん。ありがとう」

電話を切り、窓の外を見る葵。

葵:「これで終わってくれれば...」



○蓮の自宅 深夜0時

複数のモニターに、葵の部屋、アパート前、会社前、よく行くカフェの映像が映し出されている。

蓮は一つ一つの画面を確認している。

蓮:「距離を置く、か。でも、見守ることはやめない」

デスクの上には、葵の詳細なプロフィール。生年月日、血液型、出身地、学歴、友人関係、家族構成。

蓮:「君のすべてを知っている。君が何を考えているかも、何を望んでいるかも」

葵の写真を手に取る。

蓮:「いつか、君は僕の愛に気づく。それまで、僕は待つ」

画面の中で、葵がベッドに入る。

蓮:「おやすみ、葵。僕の愛しい人」



○白川出版社 編集部 翌朝9時

出社した葵のデスクに、何も置かれていない。

佐々木:「あれ?今日は花束ないね」

葵:「うん...やめてもらったから」

佐々木:「そっか。それが普通だよね」

葵:「そうだね」

しかし、葵は何となく落ち着かない。

メールを開くと、蓮からのメッセージ。

「おはよう。今日も素敵な一日を。いつでもそばにいるから。蓮」

葵:「(まだ...続けるつもり?)」