○ウェディングプランナー事務所 土曜日昼14時

最終リハーサル。

プランナー:「完璧です。あとは当日を待つだけですね」

葵:「ありがとうございます」

蓮:「楽しみだ」

プランナー:「来週の今頃は、もう夫婦ですね」

葵:「はい!」

蓮:「信じられない...」

幸せそうな二人。



○蓮の自宅 夜20時

葵と一緒にいる時、蓮のスマートフォンに着信。

蓮:「もしもし?」

病院(電話音声):「神崎蓮様のご親戚でいらっしゃいますか?」

蓮:「はい、そうですが...」

病院(電話音声):「叔母様が倒れられて、入院されています」

蓮:「!母方の叔母ですか?」

病院(電話音声):「はい。至急、来ていただけますか?」

蓮:「すぐに行きます」



○病院 夜21時

蓮と葵が病院に駆けつける。

医師が出てくる。

医師:「神崎さん?」

蓮:「はい。叔母は...?」

医師:「脳梗塞です。意識はありますが、重症です」

蓮:「...」

医師:「手術が必要ですが、高齢のためリスクが高い」

蓮:「そんな...」

葵:「蓮さん...」

蓮の手を握る葵。


○病院 病室 夜22時

ベッドに横たわる叔母・千代子(70代)。

千代子:「蓮...来てくれたの...」

蓮:「叔母さん!」

千代子:「ごめんね...こんな時に...」

蓮:「何言ってるんですか。大丈夫ですか?」

千代子:「大丈夫...でも、もう長くないかも...」

蓮:「そんなこと言わないでください!」

千代子:「蓮...お嫁さん?」

葵:「初めまして、葵と申します」

千代子:「綺麗な人...蓮、良かったわね...」



○病院 病室 夜22時30分

千代子:「蓮...来週、結婚式なんでしょ?」

蓮:「はい...」

千代子:「ごめんね...こんな時に倒れて...」

蓮:「叔母さんのせいじゃないです」

千代子:「手術...来週なの...」

蓮:「!」

千代子:「結婚式と...同じ日...」

葵:「...」

千代子:「ごめんね...でも、私は大丈夫だから...」

蓮:「何言ってるんですか!」

千代子:「結婚式、楽しんできて...」



○病院 廊下 夜23時

葵と二人で廊下に出る蓮。

蓮:「どうしよう...」

葵:「...」

蓮:「叔母さんは、母が亡くなった後、僕を引き取ってくれた人なんだ」

葵:「そうだったんですか」

蓮:「唯一の肉親なんだ」

葵:「...」

蓮:「でも、結婚式と同じ日に手術...」

葵:「蓮さん」

蓮:「どうすれば...」



○病院 廊下 夜23時15分

葵:「結婚式、延期しましょう」

*蓮:「え...?」

葵:「叔母様の手術に立ち会ってください」

蓮:「でも...準備も全部...」

葵:「大丈夫です。また日を決めればいい」

蓮:「葵...」

葵:「家族が大事です」

蓮:「...ありがとう」

葵:「当然のことです」

蓮:「でも、君は...」

葵:「私は平気です。あなたが後悔しない方を選んでください」



○病院 深夜0時

医師と話す蓮。

蓮:「結婚式を延期します。手術に立ち会います」

医師:「わかりました」

蓮:「叔母を...お願いします」

医師:「最善を尽くします」

葵が蓮の肩に手を置く。

葵:「良い決断です」

蓮:「本当にいいのか?」

葵:「はい」

蓮:「ありがとう...」

抱きしめ合う二人。



○蓮の自宅 深夜1時

二人で招待客に連絡を始める。

蓮:「すみません、結婚式を延期することになりました」

葵:「申し訳ございません...」

一人ずつ、丁寧に説明する。

蓮:「みんな、理解してくれた」

葵:「良かったです」

蓮:「葵...本当にごめん」

葵:「謝らないでください」

蓮:「君の晴れ舞台なのに...」

葵:「またその日が来ます」


○病院 手術室前 1週間後朝9時

手術を待つ蓮と葵。

本来なら、今頃結婚式のはずだった。

蓮:「今頃...式が始まる時間だ...」

葵:「...」

蓮:「ごめん...」

葵:「謝らないでください。これでよかったんです」

蓮:「でも...」

葵:「叔母様が無事なら、それでいいんです」

手を繋ぐ二人。

蓮:「ありがとう...」


○病院 待合室 昼12時

手術は3時間経過。まだ続いている。

葵:「大丈夫ですよ」

蓮:「...ああ」

葵:「叔母様、強い方なんでしょう?」

蓮:「ああ。母に似て、強い人だ」

葵:「なら、きっと大丈夫」

蓮:「...そうだといいけど」

不安で落ち着かない蓮。

葵がずっと寄り添っている。



○病院 手術室前 午後15時

医師が出てくる。

医師:「手術は成功しました」

蓮:「!本当ですか!?」

医師:「はい。命に別状はありません」

蓮:「良かった...」

崩れ落ちる蓮。

葵:「蓮さん!」

蓮:「良かった...本当に良かった...」

涙を流す蓮を、葵が抱きしめる。

葵:「良かったですね」

蓮:「ああ...」


○病院 病室 翌日昼12時

意識を取り戻した千代子。

千代子:「蓮...?」

蓮:「叔母さん!良かった!」

千代子:「手術...成功したの?」

蓮:「はい。もう大丈夫です」

千代子:「そう...良かった...」

葵:「叔母様、おめでとうございます」

千代子:「葵ちゃん...ありがとう...」

蓮:「叔母さん、結婚式延期したんです」

千代子:「え...?」

蓮:「叔母さんの手術に立ち会いたくて」

千代子:「そんな...ごめんなさい...」



○病院 病室 昼12時30分

蓮:「謝らないでください」

千代子:「でも...楽しみにしてたのに...」

蓮:「また日を決めます。今度は叔母さんも来てください」

千代子:「本当に?」

蓮:「もちろんです」

葵:「お待ちしています」

千代子:「ありがとう...二人とも...」

涙を流す千代子。

千代子:「蓮...いい人と結婚するのね...」

蓮:「はい。最高の人です」

葵:「私の方こそ、素敵な方と」

千代子:「幸せになってね...」

蓮:「はい」


○病院前 夕方17時

病院を出る二人。

蓮:「葵...」

葵:「はい?」

蓮:「君と結婚できて...いや、まだだった」

葵:「ふふ」

蓮:「でも、君を選んで本当に良かった」

葵:「私もです」

蓮:「こんな時でも、そばにいてくれて」

葵:「当然です。もうすぐ家族ですから」

蓮:「...ありがとう」



○ウェディングプランナー事務所 1週間後

新しい結婚式の日程を決める。

プランナー:「では、2ヶ月後でいかがですか?」

蓮:「どうかな?」

葵:「いいと思います」

プランナー:「叔母様も参加できますね」

蓮:「はい。それが一番嬉しい」

プランナー:「では、この日で確定しましょう」

葵:「お願いします」

蓮:「今度こそ、結婚できるね」

葵:「はい」



○公園 夕暮れ時

散歩する二人。

蓮:「今回のことで、気づいたことがある」

葵:「何ですか?」

蓮:「以前の僕なら、絶対に結婚式を優先した」

葵:「...」

蓮:「叔母さんよりも、君との結婚を選んだ」

葵:「でも、今は違った」

蓮:「ああ。家族を大切にすることの意味がわかった」

葵:「素敵です」

蓮:「君のおかげだ」

葵:「いいえ。あなたが成長したんです」



○病院 1ヶ月後

退院する千代子を迎えに来た二人。

千代子:「お迎えありがとう」

蓮:「当然です」

千代子:「リハビリ、頑張るわ」

葵:「結婚式まで、あと1ヶ月です」

千代子:「楽しみだわ」

蓮:「叔母さんが元気になって、本当に良かった」

千代子:「蓮のおかげよ。あなたが選んでくれたから」

蓮:「...」

千代子:「結婚式より、私を選んでくれて、ありがとう」

蓮:「当たり前です。家族ですから」



○葵のアパート 夜22時

カレンダーを見る葵。

新しい結婚式の日に丸がついている。

葵:「あと1ヶ月...」

葵:「今度こそ、式を挙げられる」

葵:「叔母様も来てくれる」

葵:「良かった...」

幸せそうな表情の葵。

葵:「待ち遠しいな...」



○蓮の自宅 同時刻

母と叔母の写真を見ている蓮。

蓮:「母さん、叔母さんも助かったよ」

蓮:「来月、結婚式だ」

蓮:「葵は...本当に素晴らしい人だ」

蓮:「こんな時でも、支えてくれた」

蓮:「絶対に幸せにする」

蓮:「約束するよ、母さん」

窓の外には、満月が輝いている。