○ウェディングプランナー事務所 土曜日昼14時

葵と蓮が結婚式の打ち合わせをしている。

プランナー:「式は3ヶ月後ですね」

蓮:「はい」

プランナー:「招待客は?」

葵:「30名ほどで」

プランナー:「アットホームな式ですね」

蓮:「二人らしい式にしたいんです」

プランナー:「素敵です。では、ドレスの試着を...」

幸せそうに相談する二人。



○白川出版社 編集部 月曜日朝10時

葵が婚約指輪をつけて出社。

佐々木:「葵ちゃん、それ!」

葵:「はい...婚約しました」

同僚たち:「おめでとう!」

佐々木:「神崎社長と?」

葵:「はい」

同僚A:「いつ式?」

葵:「3ヶ月後です」

山田編集長:「おめでとう、葵。幸せになれよ」

葵:「ありがとうございます」



○白川出版社 編集部 昼12時

葵のスマートフォンに着信。知らない番号。

葵:「もしもし?」

隼人(電話音声):「葵さん...隼人です」

葵:「! 隼人さん...?」

隼人(電話音声):「久しぶりです。日本に戻ってきました」

葵:「そうなんですか...」

隼人(電話音声):「お話しできませんか? 今日の夕方」

葵:「はい...大丈夫です」

隼人(電話音声):「ありがとうございます。では、例のカフェで」

電話を切る葵。複雑な表情。



○カフェ 夕方18時

先に来ている隼人。パリでの生活で、より洗練された雰囲気。

葵が入ってくる。

隼人:「葵さん」

葵:「隼人さん、お久しぶりです」

隼人:「座ってください」

二人、向かい合って座る。

隼人:「元気そうですね」

葵:「はい。隼人さんも」

隼人:「パリは...充実していました」

葵:「良かったです」

少し気まずい沈黙。



○カフェ 夕方18時15分

隼人:「実は...まだ諦めきれなくて」

葵:「...」

隼人:「パリにいる間も、ずっと葵さんのことを考えていました」

葵:「隼人さん...」

隼人:「だから、日本に戻ることにしたんです」

葵:「でも...」

左手の指輪を見る隼人。

隼人:「...婚約されたんですね」

葵:「はい」

隼人:「神崎さんと?」

葵:「はい」

隼人:「そうですか...」



○カフェ 夕方18時30分

隼人:「本当に...幸せですか?」

葵:「はい」

隼人:「彼は...変わりましたか?」

葵:「はい。本当に」

隼人:「...」

葵:「治療も終えて、今は健全な関係を築いています」

隼人:「そうですか」

葵:「ごめんなさい。あなたを傷つけてしまって」

隼人:「いいえ。あなたの選択です」

葵:「...」

隼人:「でも、一つだけ」

葵:「何ですか?」

隼人:「もし彼が変わっていなかったら...僕を思い出してください」



○蓮の自宅 夜20時

葵が蓮に報告している。

葵:「今日、隼人さんに会いました」

蓮:「!」

一瞬、表情が固まる蓮。しかし、深呼吸して落ち着く。

蓮:「そうか...日本に戻ったんだ」

葵:「はい。パリから」

蓮:「何を話したの?」

葵:「婚約のこと、伝えました」

蓮:「彼は...何て?」

葵:「まだ諦めきれないって」

蓮、拳を握りしめる。しかし、感情を抑える。

蓮:「そうか...」

葵:「でも、私の選択は変わりません」

蓮:「...ありがとう」



○蓮の自宅 夜22時

葵が帰った後、一人になる蓮。

蓮:「隼人...また現れた...」

蓮:「葵を取られるんじゃ...」

不安が込み上げる。

蓮:「ダメだ...信じるんだ...」

カウンセラーの電話番号を見る。

蓮:「いや...もう卒業したんだ。自分で乗り越えないと」

深呼吸する。

蓮:「葵は僕を選んでくれた。それを信じる」



○隼人が宿泊するホテル 同時刻

窓の外を見つめる隼人。

隼人:「やっぱり...葵さんを諦められない」

隼人:「神崎が本当に変わったのか...確かめないと」

スマートフォンで、蓮の情報を検索する。

隼人:「まだ会社は経営している...治療を受けたらしい...」

隼人:「でも、本当に治ったのか?」



○街中 翌日昼13時

ランチに出た葵。

偶然、隼人と蓮が同じ通りで出会う。

蓮:「葵」

葵:「蓮さん」

その時、後ろから声がかかる。

隼人:「葵さん」

三人が鉢合わせ。

葵:「隼人さん...」

蓮:「...」

隼人:「神崎さん、お久しぶりです」

蓮:「ああ...」

気まずい空気。



○街中 昼13時15分

隼人:「おめでとうございます。婚約」

蓮:「ありがとう」

隼人:「葵さんを幸せにしてください」

蓮:「もちろんだ」

隼人:「でも...もし彼女を泣かせたら、許しません」

蓮:「...わかってる」

葵:「二人とも...」

隼人:「では、失礼します」

去っていく隼人。

蓮:「...」

葵:「大丈夫ですか?」

蓮:「ああ。ただ...彼の気持ちもわかるから」


○神崎コーポレーション 社長室 午後15時

仕事が手につかない蓮。

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、どうかされましたか?」

蓮:「隼人が戻ってきた」

田中秘書:「!」

蓮:「まだ葵を諦めていないらしい」

田中秘書:「でも、葵さんは社長を選んだんですよね?」

蓮:「ああ。でも...不安なんだ」

田中秘書:「それは自然な感情です」

蓮:「でも、以前の僕なら...監視して、確認して...」

田中秘書:「今は違います」

蓮:「そうだ。信じないと」



○白川出版社前 夕方18時

退社する葵を待っている隼人。

隼人:「葵さん」

葵:「隼人さん...どうして?」

隼人:「一つだけ、聞かせてください」

葵:「...何ですか?」

隼人:「本当に、神崎さんを愛していますか?」

葵:「はい」

隼人:「後悔しませんか?」

葵:「しません」

隼人:「...わかりました」

葵:「隼人さん、あなたも幸せになってください」

隼人:「...ありがとうございます」



○蓮の自宅 夜20時

葵が蓮に報告する。

葵:「今日も、隼人さんに会いました」

蓮:「...」

葵:「会社の前で待っていて」

蓮:「何を?」

葵:「本当に愛しているのか、後悔しないのか、聞かれました」

蓮:「それで?」

葵:「愛していると答えました」

蓮:「...」

葵:「蓮さん、信じてください」

蓮:「信じてる。でも...」

葵:「でも?」

蓮:「彼の方が、君にふさわしいんじゃないかって」


○蓮の自宅 リビング 夜20時30分

葵:「何を言ってるんですか」

蓮:「だって、彼は最初から君を尊重していた」

葵:「でも、私が選んだのはあなたです」

蓮:「なぜ? 僕はこんなに君を苦しめたのに」

葵:「だからです」

蓮:「え?」

葵:「苦しみを乗り越えたからこそ、深い絆がある」

蓮:「葵...」

葵:「それに、あなたは変わりました。本当に」

蓮:「でも...」

葵:「もう自分を責めないでください」

涙を流す蓮。

葵:「私が選んだんです。あなたを」

抱きしめる葵。



○蓮のマンション外 夜21時

遠くから、蓮のマンションを見ている隼人。

窓越しに、抱き合う二人の影が見える。

隼人:「本当に...幸せそうだ...」

隼人:「僕の入る余地はない...」

携帯を取り出し、葵の番号を削除する。

隼人:「さようなら、葵さん」

去っていく隼人。



○カフェ 翌日昼12時

隼人が葵に最後の別れを告げるため、呼び出す。

隼人:「今日で、本当に最後にします」

葵:「...」

隼人:「昨日、あなたたちを見ました」

葵:「!」

隼人:「本当に幸せそうでした」

葵:「隼人さん...」

隼人:「だから、諦めます。完全に」

葵:「ありがとうございます」

隼人:「いえ。僕の方こそ、ありがとうございました」

葵:「?」

隼人:「あなたのおかげで、本気で人を愛することを知りました」



○カフェ 昼12時30分

隼人:「来週、またパリに戻ります」

葵:「そうなんですか」

隼人:「ええ。昇進の話もあって」

葵:「良かったです」

隼人:「向こうで、新しいスタートを切ります」

葵:「幸せになってください」

隼人:「あなたも」

二人、握手する。

隼人:「さようなら、葵さん」

葵:「さようなら、隼人さん」

隼人、カフェを出る。

葵、その背中を見送る。

葵:「(ありがとう...そして、ごめんなさい)」



○蓮の自宅 夜20時

葵:「隼人さん、来週パリに戻るそうです」

蓮:「そうか...」

葵:「完全に諦めてくれました」

蓮:「...良かった」

葵:「蓮さんも、もう不安にならないでください」

蓮:「ああ。でも、正直に言うね」

葵:「何ですか?」

蓮:「少しホッとした」

葵:「素直ですね」

蓮:「君に正直でいたいから」

葵:「ありがとうございます」



○公園 夕暮れ時

散歩する二人。

蓮:「試練だったね」

葵:「はい」

蓮:「でも、乗り越えられた」

葵:「二人だから」

蓮:「これからも、色々あるだろう」

葵:「でも、一緒なら大丈夫です」

蓮:「そうだね」

手を繋ぎ、歩く二人。

蓮:「結婚式まで、あと3ヶ月」

葵:「楽しみです」

蓮:「僕も。君と家族になれる」

葵:「はい」

夕日の中、キスをする二人。