○白川出版社 編集部 朝9時
活気のあるオープンオフィス。デスクが並び、編集者たちが忙しく働いている。葵が自分のデスクで資料を整理している。
先輩・佐々木:「葵ちゃん、大丈夫だった? 昨日遅かったでしょ」
葵:「はい、なんとか。でも帰り道、ちょっと怖い目に遭って...」
佐々木:「えっ、本当に? 大丈夫だった?」
葵:「助けてくれた人がいて。無事でした」
佐々木:「良かった...本当に気をつけてね」
編集長の山田(45)が部署に入ってくる。
山田編集長:「みんな、ちょっと集まって。重大発表がある」
編集部員たちが集まる。
山田編集長:「今日から、うちの出版社に大型クライアントが付くことになった」
佐々木:「どこですか?」
山田編集長:「神崎コーポレーション。IT業界の大手だ」
葵、その名前にハッとする。
葵:「(神崎...まさか)」
山田編集長:「彼らの新規事業のPR誌を担当することになった。今日の午後、先方の社長が直接ご挨拶に来られる」
佐々木:「社長自ら?すごいですね」
葵:「(まさか...あの人?)」
○白川出版社 会議室 昼12時
会議室を整える葵と佐々木。
佐々木:「神崎コーポレーションの社長って、まだ20代なんだって」
葵:「そうなんですか?」
佐々木:「すごいイケメンらしいよ。独身で」
葵:「...」
佐々木:「葵ちゃん、どうしたの?顔色悪いよ」
葵:「いえ、なんでもないです」
佐々木:「もしかして、昨日の件引きずってる?」
葵:「少し...」
実際は、蓮が来るのではないかという予感に動揺している葵。
山田編集長:「二人とも、そろそろ時間だ。受付に迎えに行ってくれ」
葵:「はい...」
○白川出版社 受付ロビー 午後2時
エレベーターのドアが開く。黒いスーツに身を包んだ蓮が現れる。秘書の田中(30代女性)を伴っている。
葵と佐々木が出迎える。葵の表情が固まる。
佐々木:「神崎コーポレーションの皆様ですね。お待ちしておりました」
蓮:「初めまして。神崎です」
蓮の視線が葵に向けられる。彼の目が、一瞬だけ優しく輝く。
蓮:「また会えたね、葵」
佐々木:「え?知り合いなんですか?」
葵:「あ...はい。昨日、助けていただいて...」
蓮:「偶然だね。君がこの出版社で働いているとは」
葵:「(偶然...?)」
違和感を感じる葵。しかし蓮の表情は完璧な笑顔。
佐々木:「そうだったんですね! それは運命ですね」
蓮:「ええ、運命だと思います」
○白川出版社 会議室 午後2時15分
会議テーブルを囲む一同。蓮、田中秘書、山田編集長、佐々木、葵。
山田編集長:「この度は、弊社をお選びいただき光栄です」
蓮:「こちらこそ。白川出版社の実績を拝見して、ぜひお願いしたいと思いました」
山田編集長:「ありがとうございます。担当は葵が務めます」
蓮:「葵さんが? それは...嬉しいですね」
葵を見つめる蓮。その視線が少し長い。
葵:「精一杯務めさせていただきます」
蓮:「期待しています」
田中秘書:「プロジェクトの詳細をご説明させていただきます」
資料を配布する田中秘書。
田中秘書:「新規事業は、AIを活用した教育プラットフォームです。ターゲットは20代から30代の若年層」
葵:「分かりました。PR誌のコンセプトは...」
蓮:「その件は、葵さんと直接相談したい。君のセンスを信じているから」
山田編集長:「それは...光栄です」
蓮:「明日の夕方、時間を作ってもらえますか? 葵さん」
葵:「はい...」
蓮:「素晴らしい。では、うちのオフィスで。18時にお迎えを寄越します」
○白川出版社 給湯室 午後3時
会議が終わった後。葵と佐々木がお茶を入れている。
佐々木:「すごいね、葵ちゃん! 社長直々の指名だよ」
葵:「うん...でも、なんか変なんです」
佐々木:「何が?」
葵:「偶然って言ってたけど...本当に偶然なのかな」
佐々木:「考えすぎじゃない?昨日助けてくれたんでしょ?いい人じゃん」
葵:「そうなんですけど...」
昨日の「君は僕のものだ」という言葉が脳裏をよぎる。
葵:「なんでもないです。気のせいですよね」
佐々木:「そうだよ。それより、イケメン社長と二人きりなんて羨ましい!」
葵:「仕事ですから...」
○白川出版社前 夕方18時
退社する葵。いつもの駅に向かって歩き出す。
少し離れたところで、黒い車が止まっている。中には蓮が座り、葵を見つめている。
蓮:「今日はどこへ行くのかな」
葵は気づかずに歩き続ける。コンビニに立ち寄り、お弁当を買う。
蓮はその様子をじっと見守る。
蓮:「質素な食事だね。もっといいものを食べさせてあげたい」
スマートフォンを取り出し、メモを取る蓮。
蓮:「よく行くコンビニ、ファミリーマート神田店。好きなお弁当、和風幕の内。覚えた」
○葵のアパート前 夜19時
葵がアパートに入る。蓮の車は少し離れた場所に停まっている。
蓮:「2階の角部屋。セキュリティは甘いね」
田中秘書に電話をかける。
蓮:「田中さん、明日までに調べてほしいことがある」
田中秘書(電話音声):「何でしょうか?」
蓮:「このアパートの管理会社と、契約内容。それから、周辺の防犯カメラの配置」
田中秘書(電話音声):「...承知しました」
電話を切り、再び葵の部屋の窓を見上げる蓮。明かりがついている。
蓮:「今夜も、君は無事だ。僕が守っているから」
○葵のアパート 夜20時
ソファに座り、友人の美咲(24)と電話している葵。
美咲(電話音声):「え? あの神崎コーポレーションの社長?」
葵:「うん。昨日助けてくれた人が、まさか今日のクライアントだったなんて」
美咲(電話音声):「それって運命じゃない? しかも超イケメンなんでしょ?」
葵:「それはそうだけど...なんか引っかかるんだよね」
美咲(電話音声):「何が?」
葵:「昨日、『君は僕のものだ』って言われたの」
美咲(電話音声):「え...それヤバくない?」
葵:「でしょ? それなのに、今日は普通のビジネスマンって感じで」
美咲(電話音声):「もしかして、ストーカー?」
葵:「まさか...考えすぎだよね」
美咲(電話音声):「でも気をつけてね。何かあったらすぐ連絡して」
葵:「うん、ありがとう」
電話を切り、窓の外を見る葵。まさか、その下に蓮がいるとは知らずに。
○葵のアパート 翌朝7時
身支度をする葵。クローゼットから服を選んでいる。
葵:「今日は打ち合わせだから...フォーマルな方がいいよね」
黒のパンツスーツを選ぶ。鏡の前で確認する。
葵:「よし。気合い入れていこう」
コートを羽織り、蓮から借りたコートを持つ。
葵:「そうだ、これも返さないと」
○白川出版社 編集部 朝9時
出社する葵。デスクには、大きな花束が置かれている。
葵:「え...?」
カードを見ると「昨日はありがとう。今日の打ち合わせ、楽しみにしています。神崎蓮」と書かれている。
佐々木:「うわー!すごい花束! 誰から?」
葵:「神崎社長から...」
佐々木:「やっぱり! 絶対気があるよ、葵ちゃんに!」
葵:「そんな...仕事上のお付き合いですよ」
佐々木:「それにしては豪華すぎない?」
周りの同僚たちも注目している。
同僚A:「葵ちゃん、モテモテだね」
同僚B:「羨ましい!」
葵、困惑した表情。
葵:「(これって...普通なの?)」
○神崎コーポレーション本社ビル ロビー 夕方18時
近代的な高層ビル。葵が受付で名前を告げる。
受付:「葵様ですね。お待ちしておりました。秘書の田中がお迎えに参ります」
程なくして、田中秘書が現れる。
田中秘書:「葵さん、ようこそ。社長がお待ちです」
エレベーターで最上階へ。
田中秘書:「社長は、とても葵さんとの打ち合わせを楽しみにされていました」
葵:「ありがとうございます」
田中秘書:「社長は普段、あまり外部の方と個別に会われないんです。葵さんは特別なんですね」
葵:「特別...?」
エレベーターのドアが開く。
○神崎コーポレーション 社長室 夕方18時10分
広々とした社長室。窓からは東京の夜景が一望できる。蓮が立ち上がり、葵を迎える。
蓮:「いらっしゃい、葵」
葵:「お邪魔します」
蓮:「座って。まず、コーヒーでも」
蓮自らコーヒーを淹れる。
葵:「お気遣いなく...」
蓮:「君の好みは知っている。ミルク多め、砂糖なしだろう?」
葵、驚く。
葵:「え? なんで知ってるんですか?」
蓮:「昨日、コンビニで買っていたカフェラテを見た」
葵:「...いつ?」
蓮:「駅まで送る途中、自販機の前を通った時」
葵、やや納得するが、違和感は消えない。
蓮:「観察力は、ビジネスに必要なスキルだからね」
○神崎コーポレーション 社長室 夕方18時30分
資料を広げながら話す二人。
蓮:「PR誌のコンセプトだけど、君はどう思う?」
葵:「そうですね...若年層向けなら、SNS映えするデザインが重要かと」
蓮:「いいね。君のセンスを信じてる」
葵:「ありがとうございます」
蓮:「ところで、葵は普段どんな雑誌を読むの?」
葵:「え?ビジネス系が多いですが...」
蓮:「プライベートでは?」
葵:「ファッション誌とか...」
蓮:「好きなブランドは?」
徐々に仕事から離れていく話題。
葵:「あの...これって打ち合わせと関係ありますか?」
蓮:「もちろん。ターゲット層を理解するために、君のことを知りたい」
葵:「そういうことなら...」
蓮:「休日は何をしているの?」
葵:「友達と会ったり、映画を見たり...」
蓮:「彼氏は?」
葵:「!?それは...」
蓮:「ごめん。失礼だったね」
蓮、笑顔を見せるが、その目は真剣。
○神崎コーポレーション 社長室 夜19時30分
打ち合わせが終わり、帰ろうとする葵。
蓮:「待って。これ」
小さな箱を差し出す蓮。
葵:「これは...?」
蓮:「昨日のお礼。開けてみて」
箱を開けると、高級ブランドのペンが入っている。
葵:「こんな高価なもの...受け取れません」
蓮:「命の恩人へのお礼だよ。受け取って」
葵:「命の恩人は蓮さんの方です」
蓮:「いや、君が僕の前に現れてくれたことが、僕にとっての救いだった」
葵:「どういう...意味ですか?」
蓮:「君に会うまで、僕の人生は空っぽだった。でも、君を見た瞬間、初めて心が動いた」
葵、戸惑う。
葵:「蓮さん...」
蓮:「受け取って。君のためのものだから」
○神崎コーポレーション前 夜20時
ビルの前に高級車が停まっている。
蓮:「送るよ」
葵:「大丈夫です。電車で帰りますから」
蓮:「夜道は危ない。昨日みたいなことがあったら...」
葵、昨日のことを思い出して躊躇する。
葵:「でも...」
蓮:「お願い。君の安全が心配なんだ」
結局、車に乗る葵。
車内で沈黙が続く。蓮は時折、葵の方を見る。
蓮:「この辺りは、よく通るの?」
葵:「時々...」
蓮:「好きなお店とかある?」
葵:「特には...」
窓の外を見る葵。そして気づく。蓮は彼女の自宅の方向を、何も聞かずに進んでいる。
葵:「あの...私の家の場所、教えてませんよね?」
蓮、一瞬動揺するが、すぐに笑顔を取り戻す。
蓮:「会社の住所から推測した。この辺りの家賃相場を考えると、このエリアだろうと」
葵:「...そうですか」
完全に信じていない葵。
○葵のアパート前 夜20時30分
車が葵のアパートの前に停まる。
葵:「ありがとうございました」
蓮:「気をつけて。また明日」
葵:「明日?」
蓮:「打ち合わせの続き。毎日会いたい」
葵:「それは...」
蓮:「冗談だよ。でも、近いうちにまた」
葵が車を降りようとすると、蓮が手を握る。
蓮:「葵」
葵:「はい...?」
蓮:「君のこと、もっと知りたい」
葵:「仕事上のことは、資料でお送りします」
蓮:「仕事じゃない。君自身を」
葵、手を引き抜く。
葵:「失礼します」
急いで車を降り、アパートに入る葵。
蓮は車の中で、彼女の背中を見つめる。
蓮:「まだ警戒しているね。でも、大丈夫。時間をかけて、君を僕のものにする」
○葵のアパート 夜21時
部屋に入り、ドアに鍵をかける葵。心臓がドキドキしている。
葵:「なんなんだろう...あの人」
窓から外を見ると、蓮の車はまだそこにある。
葵:「まさか...」
カーテンを閉める葵。
美咲に電話をかける。
葵:「美咲? 今、大丈夫?」
美咲(電話音声):「どうしたの?声、震えてるよ」
葵:「あの人...やっぱり変だよ。何も言ってないのに、家の場所知ってた」
美咲(電話音声):「それヤバいって!警察に...」
葵:「でも証拠がない。それに、大手企業の社長だし...」
美咲(電話音声):「それでも危ないって。今夜、泊まりに行こうか?」
葵:「大丈夫...多分、考えすぎだと思う」
美咲(電話音声):「何かあったらすぐ連絡してね」
葵:「うん、ありがとう」
電話を切り、ベッドに座る葵。
葵:「どうしよう...」
○葵のアパート前 夜22時
蓮はまだ車の中にいる。葵の部屋の明かりが消える。
蓮:「おやすみ、葵。いい夢を」
スマートフォンを取り出し、今日撮った葵の写真を見る。会議室での笑顔、社長室での真剣な表情。
蓮:「君は本当に美しい。そして、僕だけのもの」
エンジンをかけ、ゆっくりと走り去る車。
しかし、アパートの周辺には、蓮が設置した小型カメラがすでに取り付けられている。
画面には、葵の部屋の窓が映し出されている。
活気のあるオープンオフィス。デスクが並び、編集者たちが忙しく働いている。葵が自分のデスクで資料を整理している。
先輩・佐々木:「葵ちゃん、大丈夫だった? 昨日遅かったでしょ」
葵:「はい、なんとか。でも帰り道、ちょっと怖い目に遭って...」
佐々木:「えっ、本当に? 大丈夫だった?」
葵:「助けてくれた人がいて。無事でした」
佐々木:「良かった...本当に気をつけてね」
編集長の山田(45)が部署に入ってくる。
山田編集長:「みんな、ちょっと集まって。重大発表がある」
編集部員たちが集まる。
山田編集長:「今日から、うちの出版社に大型クライアントが付くことになった」
佐々木:「どこですか?」
山田編集長:「神崎コーポレーション。IT業界の大手だ」
葵、その名前にハッとする。
葵:「(神崎...まさか)」
山田編集長:「彼らの新規事業のPR誌を担当することになった。今日の午後、先方の社長が直接ご挨拶に来られる」
佐々木:「社長自ら?すごいですね」
葵:「(まさか...あの人?)」
○白川出版社 会議室 昼12時
会議室を整える葵と佐々木。
佐々木:「神崎コーポレーションの社長って、まだ20代なんだって」
葵:「そうなんですか?」
佐々木:「すごいイケメンらしいよ。独身で」
葵:「...」
佐々木:「葵ちゃん、どうしたの?顔色悪いよ」
葵:「いえ、なんでもないです」
佐々木:「もしかして、昨日の件引きずってる?」
葵:「少し...」
実際は、蓮が来るのではないかという予感に動揺している葵。
山田編集長:「二人とも、そろそろ時間だ。受付に迎えに行ってくれ」
葵:「はい...」
○白川出版社 受付ロビー 午後2時
エレベーターのドアが開く。黒いスーツに身を包んだ蓮が現れる。秘書の田中(30代女性)を伴っている。
葵と佐々木が出迎える。葵の表情が固まる。
佐々木:「神崎コーポレーションの皆様ですね。お待ちしておりました」
蓮:「初めまして。神崎です」
蓮の視線が葵に向けられる。彼の目が、一瞬だけ優しく輝く。
蓮:「また会えたね、葵」
佐々木:「え?知り合いなんですか?」
葵:「あ...はい。昨日、助けていただいて...」
蓮:「偶然だね。君がこの出版社で働いているとは」
葵:「(偶然...?)」
違和感を感じる葵。しかし蓮の表情は完璧な笑顔。
佐々木:「そうだったんですね! それは運命ですね」
蓮:「ええ、運命だと思います」
○白川出版社 会議室 午後2時15分
会議テーブルを囲む一同。蓮、田中秘書、山田編集長、佐々木、葵。
山田編集長:「この度は、弊社をお選びいただき光栄です」
蓮:「こちらこそ。白川出版社の実績を拝見して、ぜひお願いしたいと思いました」
山田編集長:「ありがとうございます。担当は葵が務めます」
蓮:「葵さんが? それは...嬉しいですね」
葵を見つめる蓮。その視線が少し長い。
葵:「精一杯務めさせていただきます」
蓮:「期待しています」
田中秘書:「プロジェクトの詳細をご説明させていただきます」
資料を配布する田中秘書。
田中秘書:「新規事業は、AIを活用した教育プラットフォームです。ターゲットは20代から30代の若年層」
葵:「分かりました。PR誌のコンセプトは...」
蓮:「その件は、葵さんと直接相談したい。君のセンスを信じているから」
山田編集長:「それは...光栄です」
蓮:「明日の夕方、時間を作ってもらえますか? 葵さん」
葵:「はい...」
蓮:「素晴らしい。では、うちのオフィスで。18時にお迎えを寄越します」
○白川出版社 給湯室 午後3時
会議が終わった後。葵と佐々木がお茶を入れている。
佐々木:「すごいね、葵ちゃん! 社長直々の指名だよ」
葵:「うん...でも、なんか変なんです」
佐々木:「何が?」
葵:「偶然って言ってたけど...本当に偶然なのかな」
佐々木:「考えすぎじゃない?昨日助けてくれたんでしょ?いい人じゃん」
葵:「そうなんですけど...」
昨日の「君は僕のものだ」という言葉が脳裏をよぎる。
葵:「なんでもないです。気のせいですよね」
佐々木:「そうだよ。それより、イケメン社長と二人きりなんて羨ましい!」
葵:「仕事ですから...」
○白川出版社前 夕方18時
退社する葵。いつもの駅に向かって歩き出す。
少し離れたところで、黒い車が止まっている。中には蓮が座り、葵を見つめている。
蓮:「今日はどこへ行くのかな」
葵は気づかずに歩き続ける。コンビニに立ち寄り、お弁当を買う。
蓮はその様子をじっと見守る。
蓮:「質素な食事だね。もっといいものを食べさせてあげたい」
スマートフォンを取り出し、メモを取る蓮。
蓮:「よく行くコンビニ、ファミリーマート神田店。好きなお弁当、和風幕の内。覚えた」
○葵のアパート前 夜19時
葵がアパートに入る。蓮の車は少し離れた場所に停まっている。
蓮:「2階の角部屋。セキュリティは甘いね」
田中秘書に電話をかける。
蓮:「田中さん、明日までに調べてほしいことがある」
田中秘書(電話音声):「何でしょうか?」
蓮:「このアパートの管理会社と、契約内容。それから、周辺の防犯カメラの配置」
田中秘書(電話音声):「...承知しました」
電話を切り、再び葵の部屋の窓を見上げる蓮。明かりがついている。
蓮:「今夜も、君は無事だ。僕が守っているから」
○葵のアパート 夜20時
ソファに座り、友人の美咲(24)と電話している葵。
美咲(電話音声):「え? あの神崎コーポレーションの社長?」
葵:「うん。昨日助けてくれた人が、まさか今日のクライアントだったなんて」
美咲(電話音声):「それって運命じゃない? しかも超イケメンなんでしょ?」
葵:「それはそうだけど...なんか引っかかるんだよね」
美咲(電話音声):「何が?」
葵:「昨日、『君は僕のものだ』って言われたの」
美咲(電話音声):「え...それヤバくない?」
葵:「でしょ? それなのに、今日は普通のビジネスマンって感じで」
美咲(電話音声):「もしかして、ストーカー?」
葵:「まさか...考えすぎだよね」
美咲(電話音声):「でも気をつけてね。何かあったらすぐ連絡して」
葵:「うん、ありがとう」
電話を切り、窓の外を見る葵。まさか、その下に蓮がいるとは知らずに。
○葵のアパート 翌朝7時
身支度をする葵。クローゼットから服を選んでいる。
葵:「今日は打ち合わせだから...フォーマルな方がいいよね」
黒のパンツスーツを選ぶ。鏡の前で確認する。
葵:「よし。気合い入れていこう」
コートを羽織り、蓮から借りたコートを持つ。
葵:「そうだ、これも返さないと」
○白川出版社 編集部 朝9時
出社する葵。デスクには、大きな花束が置かれている。
葵:「え...?」
カードを見ると「昨日はありがとう。今日の打ち合わせ、楽しみにしています。神崎蓮」と書かれている。
佐々木:「うわー!すごい花束! 誰から?」
葵:「神崎社長から...」
佐々木:「やっぱり! 絶対気があるよ、葵ちゃんに!」
葵:「そんな...仕事上のお付き合いですよ」
佐々木:「それにしては豪華すぎない?」
周りの同僚たちも注目している。
同僚A:「葵ちゃん、モテモテだね」
同僚B:「羨ましい!」
葵、困惑した表情。
葵:「(これって...普通なの?)」
○神崎コーポレーション本社ビル ロビー 夕方18時
近代的な高層ビル。葵が受付で名前を告げる。
受付:「葵様ですね。お待ちしておりました。秘書の田中がお迎えに参ります」
程なくして、田中秘書が現れる。
田中秘書:「葵さん、ようこそ。社長がお待ちです」
エレベーターで最上階へ。
田中秘書:「社長は、とても葵さんとの打ち合わせを楽しみにされていました」
葵:「ありがとうございます」
田中秘書:「社長は普段、あまり外部の方と個別に会われないんです。葵さんは特別なんですね」
葵:「特別...?」
エレベーターのドアが開く。
○神崎コーポレーション 社長室 夕方18時10分
広々とした社長室。窓からは東京の夜景が一望できる。蓮が立ち上がり、葵を迎える。
蓮:「いらっしゃい、葵」
葵:「お邪魔します」
蓮:「座って。まず、コーヒーでも」
蓮自らコーヒーを淹れる。
葵:「お気遣いなく...」
蓮:「君の好みは知っている。ミルク多め、砂糖なしだろう?」
葵、驚く。
葵:「え? なんで知ってるんですか?」
蓮:「昨日、コンビニで買っていたカフェラテを見た」
葵:「...いつ?」
蓮:「駅まで送る途中、自販機の前を通った時」
葵、やや納得するが、違和感は消えない。
蓮:「観察力は、ビジネスに必要なスキルだからね」
○神崎コーポレーション 社長室 夕方18時30分
資料を広げながら話す二人。
蓮:「PR誌のコンセプトだけど、君はどう思う?」
葵:「そうですね...若年層向けなら、SNS映えするデザインが重要かと」
蓮:「いいね。君のセンスを信じてる」
葵:「ありがとうございます」
蓮:「ところで、葵は普段どんな雑誌を読むの?」
葵:「え?ビジネス系が多いですが...」
蓮:「プライベートでは?」
葵:「ファッション誌とか...」
蓮:「好きなブランドは?」
徐々に仕事から離れていく話題。
葵:「あの...これって打ち合わせと関係ありますか?」
蓮:「もちろん。ターゲット層を理解するために、君のことを知りたい」
葵:「そういうことなら...」
蓮:「休日は何をしているの?」
葵:「友達と会ったり、映画を見たり...」
蓮:「彼氏は?」
葵:「!?それは...」
蓮:「ごめん。失礼だったね」
蓮、笑顔を見せるが、その目は真剣。
○神崎コーポレーション 社長室 夜19時30分
打ち合わせが終わり、帰ろうとする葵。
蓮:「待って。これ」
小さな箱を差し出す蓮。
葵:「これは...?」
蓮:「昨日のお礼。開けてみて」
箱を開けると、高級ブランドのペンが入っている。
葵:「こんな高価なもの...受け取れません」
蓮:「命の恩人へのお礼だよ。受け取って」
葵:「命の恩人は蓮さんの方です」
蓮:「いや、君が僕の前に現れてくれたことが、僕にとっての救いだった」
葵:「どういう...意味ですか?」
蓮:「君に会うまで、僕の人生は空っぽだった。でも、君を見た瞬間、初めて心が動いた」
葵、戸惑う。
葵:「蓮さん...」
蓮:「受け取って。君のためのものだから」
○神崎コーポレーション前 夜20時
ビルの前に高級車が停まっている。
蓮:「送るよ」
葵:「大丈夫です。電車で帰りますから」
蓮:「夜道は危ない。昨日みたいなことがあったら...」
葵、昨日のことを思い出して躊躇する。
葵:「でも...」
蓮:「お願い。君の安全が心配なんだ」
結局、車に乗る葵。
車内で沈黙が続く。蓮は時折、葵の方を見る。
蓮:「この辺りは、よく通るの?」
葵:「時々...」
蓮:「好きなお店とかある?」
葵:「特には...」
窓の外を見る葵。そして気づく。蓮は彼女の自宅の方向を、何も聞かずに進んでいる。
葵:「あの...私の家の場所、教えてませんよね?」
蓮、一瞬動揺するが、すぐに笑顔を取り戻す。
蓮:「会社の住所から推測した。この辺りの家賃相場を考えると、このエリアだろうと」
葵:「...そうですか」
完全に信じていない葵。
○葵のアパート前 夜20時30分
車が葵のアパートの前に停まる。
葵:「ありがとうございました」
蓮:「気をつけて。また明日」
葵:「明日?」
蓮:「打ち合わせの続き。毎日会いたい」
葵:「それは...」
蓮:「冗談だよ。でも、近いうちにまた」
葵が車を降りようとすると、蓮が手を握る。
蓮:「葵」
葵:「はい...?」
蓮:「君のこと、もっと知りたい」
葵:「仕事上のことは、資料でお送りします」
蓮:「仕事じゃない。君自身を」
葵、手を引き抜く。
葵:「失礼します」
急いで車を降り、アパートに入る葵。
蓮は車の中で、彼女の背中を見つめる。
蓮:「まだ警戒しているね。でも、大丈夫。時間をかけて、君を僕のものにする」
○葵のアパート 夜21時
部屋に入り、ドアに鍵をかける葵。心臓がドキドキしている。
葵:「なんなんだろう...あの人」
窓から外を見ると、蓮の車はまだそこにある。
葵:「まさか...」
カーテンを閉める葵。
美咲に電話をかける。
葵:「美咲? 今、大丈夫?」
美咲(電話音声):「どうしたの?声、震えてるよ」
葵:「あの人...やっぱり変だよ。何も言ってないのに、家の場所知ってた」
美咲(電話音声):「それヤバいって!警察に...」
葵:「でも証拠がない。それに、大手企業の社長だし...」
美咲(電話音声):「それでも危ないって。今夜、泊まりに行こうか?」
葵:「大丈夫...多分、考えすぎだと思う」
美咲(電話音声):「何かあったらすぐ連絡してね」
葵:「うん、ありがとう」
電話を切り、ベッドに座る葵。
葵:「どうしよう...」
○葵のアパート前 夜22時
蓮はまだ車の中にいる。葵の部屋の明かりが消える。
蓮:「おやすみ、葵。いい夢を」
スマートフォンを取り出し、今日撮った葵の写真を見る。会議室での笑顔、社長室での真剣な表情。
蓮:「君は本当に美しい。そして、僕だけのもの」
エンジンをかけ、ゆっくりと走り去る車。
しかし、アパートの周辺には、蓮が設置した小型カメラがすでに取り付けられている。
画面には、葵の部屋の窓が映し出されている。



