○レストラン 夜19時 1週間後

正式に恋人になった二人。初めてのデート。

蓮:「恋人として...なんだか照れるね」

葵:「私も」

蓮:「でも、嬉しい」

葵:「私もです」

手を繋ぐ二人。自然な笑顔。

蓮:「葵、今日は話したいことがあって」

葵:「何ですか?」

蓮:「僕の過去...全部話したい」



○レストラン 夜19時30分

葵:「過去...ですか」

蓮:「以前、少しだけ話したけど...母のこと」

葵:「はい」

蓮:「でも、全部は話していなかった」

葵:「...」

蓮:「恋人になったから。君には全てを知ってほしい」

葵:「ありがとうございます」

蓮:「でも、ここじゃなんだから...僕の家でいい?」

葵:「はい」


○蓮の自宅 リビング 夜21時

高層マンションの広いリビング。窓から東京の夜景が見える。

葵:「素敵な部屋ですね」

蓮:「ありがとう。座って」

ソファに座る二人。

蓮が写真立てを手に取る。母・麗子の写真。

蓮:「これが母さん」

葵:「綺麗な方...」

蓮:「優しくて、強い人だった」



○蓮の自宅 リビング 夜21時15分

蓮:「僕が7歳の時、父が家を出た」

葵:「...」

蓮:「母さんは一人で僕を育ててくれた。昼も夜も働いて」

葵:「大変でしたね」

蓮:「でも、母さんは笑顔を絶やさなかった。『蓮がいてくれれば、お母さんは幸せ』って」

葵:「素晴らしいお母様ですね」

蓮:「ああ。僕にとって、母さんは世界の全てだった」

涙ぐむ蓮。葵が手を握る。



○蓮の自宅 リビング 夜21時30分

蓮:「でも、母さんには秘密があった」

葵:「秘密...?」

蓮:「借金。父が残していった借金」

葵:「!」

蓮:「母さんは僕に隠して、一人で抱えていた」

葵:「そんな...」

蓮:「僕は何も知らなかった。ただ母さんが疲れているなとは思っていた」

葵:「つらかったですね...」

蓮:「もっとつらかったのは母さんだ。僕は子供で、何もできなかった」


○蓮の自宅 リビング 夜21時45分

蓮:「12歳の時...あの日が来た」

深呼吸する蓮。葵がそっと寄り添う。

蓮:「学校からの帰り道、母さんと一緒に歩いていた」

葵:「...」

蓮:「そこに、借金取りの男たちが現れた」

葵:「...」

蓮:「母さんは僕を背中に隠して、必死に守ろうとした」

声が震える蓮。

蓮:「男の一人が、僕に手を伸ばした。その時...」



○蓮の自宅 リビング 夜22時

蓮:「母さんが僕を庇って...殴られた」

葵:「...!」

蓮:「頭を強く打って...倒れた」

涙が溢れる蓮。

蓮:「僕は...何もできなかった。ただ泣き叫ぶだけだった」

葵:「蓮さん...」

蓮:「母さんは病院で意識を取り戻さなかった。そして...3日後に...」

葵:「...」

蓮:「死んだ」

葵、蓮を抱きしめる。

葵:「辛かったですね...」

蓮:「僕のせいだ。僕さえいなければ、母さんは...」

葵:「違います! あなたのせいじゃありません」



○蓮の自宅 リビング 夜22時30分

蓮:「頭ではわかってる。でも、心が...」

葵:「...」

蓮:「それから、親戚の家を転々として。誰も僕を本当に愛してくれなかった」

葵:「寂しかったですね」

蓮:「ああ。だから、ずっと思っていた。『もう誰も愛さない。愛したら、失うから』って」

葵:「でも...」

蓮:「でも、君に会った」

葵を見つめる蓮。

蓮:「君を見た時、母さんを思い出した」


○蓮の自宅 リビング 夜23時

蓮:「君の笑顔、優しさ...全部が母さんを思い出させた」

葵:「だから...」

蓮:「だから、失いたくなかった。また大切な人を失うのが怖かった」

葵:「それで、監視を...」

蓮:「ああ。君の全てを把握すれば、守れると思った」

葵:「でも、それは...」

蓮:「支配だった。わかってる」

葵:「今は違いますよね?」

蓮:「ああ。カウンセリングで学んだ。愛とは、相手を信じること。自由にすることだって」



○蓮の自宅 リビング 夜23時30分

葵:「私も...話していいですか?」

蓮:「もちろん」

葵:「実は私も、似た経験があって」

蓮:「え?」

葵:「私の父も、私が10歳の時に亡くなりました」

蓮:「!」

葵:「病気で。でも、最期まで『葵を頼む』って母に言っていたそうです」

蓮:「そうだったのか...」

葵:「だから、あなたの気持ち...少しわかるんです」



○蓮の自宅 リビング 夜23時45分

葵:「大切な人を失う恐怖。私も持っています」

蓮:「葵...」

葵:「だから、あなたの執着...最初は怖かったけど、理解できた」

蓮:「でも、僕は行き過ぎた」

葵:「はい。でも、根底にある想いは理解できます」

蓮:「ありがとう...」

二人、抱き合う。

蓮:「君がいてくれて、本当に良かった」

葵:「私も」


○蓮の自宅 リビング 深夜0時

蓮が母の写真を手に取る。

蓮:「母さん...僕、やっと見つけたよ。本当に愛せる人を」

葵:「...」

蓮:「今度は間違えない。ちゃんと愛する」

葵:「お母様も、きっと喜んでいます」

蓮:「そうだといいな」

母の写真に、葵を紹介する蓮。

蓮:「母さん、この人が葵。僕の恋人」

葵:「初めまして...」



○蓮の自宅 リビング 深夜0時30分

蓮:「葵、一つ聞いていい?」

葵:「何ですか?」

蓮:「将来...僕と結婚してくれる?」

葵:「!」

蓮:「今すぐじゃなくていい。でも、いつか」

葵:「...はい」

蓮:「本当に?」

葵:「本当に。あなたと一緒にいたいです」

蓮:「ありがとう...」

キスをする二人。



○蓮の自宅 リビング 深夜1時

蓮:「もう遅いから...泊まっていく?」

葵:「え...でも...」

蓮:「大丈夫。ゲストルームがある。無理強いはしない」

葵:「じゃあ...お言葉に甘えて」

蓮:「ありがとう。一緒にいたいんだ、今夜は」

葵:「私も」



○蓮の自宅 ゲストルーム 深夜1時30分

葵がゲストルームで横になる。

葵:「(彼の過去...つらかったんだな...)」

葵:「(でも、乗り越えようとしている)」

葵:「(私が支えなきゃ)」


○蓮の自宅 寝室 深夜1時30分

ベッドで横になる蓮。

蓮:「(全部話せて...良かった)」

蓮:「(葵は受け入れてくれた)」

蓮:「(これからは、健全に愛していく)」

母の写真を見る。

蓮:「母さん、見守っていてくれ」


○蓮の自宅 キッチン 朝7時

朝食を作る蓮。葵が起きてくる。

葵:「おはようございます」

蓮:「おはよう。よく眠れた?」

葵:「はい」

蓮:「朝ごはん、作ったよ」

葵:「わ、すごい!」

テーブルには、綺麗に盛り付けられた朝食。

蓮:「母さんが教えてくれた料理」

葵:「美味しそう...」


○蓮の自宅 ダイニング 朝7時30分

葵:「美味しいです!」

蓮:「良かった」

葵:「お母様、料理上手だったんですね」

蓮:「ああ。貧しかったけど、いつも美味しいご飯を作ってくれた」

葵:「素敵な思い出ですね」

蓮:「うん。辛い記憶ばかりじゃなかった。幸せな時間もあった」

葵:「それを思い出せるようになったんですね」

蓮:「君のおかげだ」



○蓮の自宅 玄関 朝8時

蓮:「送るよ」

葵:「ありがとうございます」

蓮:「昨夜は...話を聞いてくれてありがとう」

葵:「こちらこそ。話してくれてありがとうございます」

蓮:「これからも、何でも話すよ」

葵:「私も」

蓮:「じゃあ、行こう」

手を繋いで出ていく二人。



○心療内科 カウンセリングルーム 夕方18時

カウンセラー:「過去を全て話したんですね」

蓮:「はい。もう隠すことはありません」

カウンセラー:「どう感じましたか?」

蓮:「楽になりました。重荷を下ろせた感じ」

カウンセラー:「素晴らしい。それが癒しの第一歩です」

蓮:「葵も理解してくれました」

カウンセラー:「良い関係ですね」

蓮:「はい。今は...本当に幸せです」



○公園 夕暮れ時

散歩する二人。

葵:「蓮さん、これからどうしていきたいですか?」

蓮:「どうって?」

葵:「将来」

蓮:「そうだな...君と結婚して、家庭を持ちたい」

葵:「家庭...」

蓮:「でも、焦らない。ゆっくり、一歩ずつ」

葵:「はい」

蓮:「そして...いつか、母さんに胸を張って報告したい」

葵:「きっと、お母様も喜んでいます」

蓮:「ありがとう」

夕日の中、キスをする二人。