○心療内科 カウンセリングルーム 4ヶ月後

カウンセラー:「4ヶ月ですね。状態はいかがですか?」

蓮:「だいぶ安定してきました」

カウンセラー:「具体的には?」

蓮:「葵のことを考えても、パニックにならない。彼女を信頼できるようになった」

カウンセラー:「素晴らしい。では、そろそろ次のステップかもしれません」

蓮:「次のステップ?」

カウンセラー:「直接会う準備です」

蓮:「!」


○神崎コーポレーション 社長室 同日午後

蓮が田中秘書に相談している。

蓮:「カウンセラーが、そろそろ会ってもいいと」

田中秘書:「それは良かったですね」

蓮:「でも...怖いんだ」

田中秘書:「何が?」

蓮:「会ったら、また執着してしまうんじゃないかって」

田中秘書:「社長は変わりました。大丈夫です」

蓮:「...そうだといいが」



○蓮の自宅 夜20時

蓮が葵に電話をかける。4ヶ月ぶりの電話。

震える手で、発信ボタンを押す。

呼び出し音。

葵(電話音声):「もしもし...」

蓮:「葵...僕だ」

葵(電話音声):「!蓮さん...」

二人とも、声が震えている。


○それぞれの場所 夜20時15分

蓮:「久しぶり...元気だった?」

葵(電話音声):「はい。蓮さんは?」

蓮:「元気だよ。治療も順調で」

葵(電話音声):「良かった...」

蓮:「あのね...カウンセラーが、もう会ってもいいって」

葵(電話音声):「本当ですか!?」

蓮:「ああ。でも、葵が嫌なら...」

葵(電話音声):「会いたいです! すごく!」

蓮:「...ありがとう」

二人とも、涙声。



○電話での会話 夜20時30分

蓮:「じゃあ...今週末、どうかな?」

葵(電話音声):「はい! どこで?」

蓮:「公園がいい。人が多い場所の方が、僕も落ち着ける」

葵(電話音声):「わかりました」

蓮:「土曜日の午後2時」

葵(電話音声):「楽しみにしています」

蓮:「僕も...すごく」

電話を切った後、二人とも興奮で眠れない。


○葵のアパート 金曜日夜

クローゼットの前で服を選ぶ葵。

葵:「何を着ていこう...」

何着も試着する。

葵:「明日...やっと会える...」

美咲に電話する。

美咲(電話音声):「ついに明日なんだね」

葵:「うん...緊張する」

美咲(電話音声):「大丈夫。あなたが選んだ道だもん」

葵:「ありがとう」


○蓮の自宅 金曜日夜

鏡の前で身だしなみを整える蓮。

蓮:「明日...どんな顔をすればいい?」

何度も深呼吸する。

蓮:「大丈夫。僕は変わった。彼女を苦しめない」

カウンセラーに電話する。

カウンセラー(電話音声):「落ち着いてください」

蓮:「すみません。でも、不安で...」

カウンセラー(電話音声):「自然体でいいんです。あなたはもう大丈夫」


○公園 土曜日午後14時

ベンチで待つ蓮。少し早く到着している。

遠くから、葵が歩いてくる。

お互いを見つけ、立ち止まる。

蓮:「葵...」

葵:「蓮さん...」

ゆっくりと近づく二人。

適度な距離を保って、向き合う。

蓮:「久しぶり」

葵:「はい...4ヶ月ぶり」



○公園のベンチ 午後14時15分

少し距離を置いて座る二人。

蓮:「痩せた?」

葵:「少し...蓮さんこそ」

蓮:「カウンセリングのストレスで」

二人、笑う。

葵:「でも...目が違います」

蓮:「目?」

葵:「以前は、どこか狂気的だった。今は、穏やか」

蓮:「本当に?」

葵:「はい」


○公園のベンチ 午後14時45分

蓮:「仕事は順調?」

葵:「はい。新しいプロジェクトも任されて」

蓮:「頑張ってるんだね」

葵:「蓮さんの会社は?」

蓮:「業績は回復した。でも、僕は副社長に任せて、自分の治療に専念している」

葵:「そうなんですね」

蓮:「君が待っていてくれるから、頑張れる」

葵:「私も...会えると思うと、毎日が楽しかった」



○公園のベンチ 午後15時30分

話が弾み、自然と距離が縮まる二人。

蓮の手が、葵の手に近づく。

蓮:「葵...手を...」

しかし、自分で止める。

蓮:「ごめん。まだダメだ」

葵:「いいんです。焦らなくて」

蓮:「ありがとう」

葵:「でも...私も触れたい」

二人、見つめ合う。



○公園 午後16時

突然、雨が降り始める。

葵:「わ!」

蓮:「雨だ。どこかで雨宿りを」

二人、近くのカフェに駆け込む。



○カフェ 午後16時15分

窓際の席に座る二人。外は土砂降り。

蓮:「濡れちゃったね」

葵:「はい」

ウェイターがタオルを持ってくる。

蓮が葵の髪をそっと拭こうとするが、手を止める。

蓮:「...自分で拭いて」

葵:「ありがとうございます」

蓮の自制心の強さに、葵は感動する。



○カフェ 午後17時

温かいコーヒーを飲みながら。

葵:「蓮さん、グループセラピー、どうですか?」

蓮:「最初は抵抗があった。でも、同じ問題を抱える人と話すのは有意義だ」

葵:「そうなんですね」

蓮:「君は...僕を許してくれた。でも、自分を許すのが一番難しい」

葵:「時間がかかるのは当然です」

蓮:「君は...本当に優しいね」

葵:「あなたを愛しているから」



○カフェ 午後17時30分

蓮:「葵...一つ聞いていい?」

葵:「何ですか?」

蓮:「なぜ僕を待っているの? 他にもっといい人がいるはずだ」

葵:「いい人の定義は人それぞれです」

蓮:「でも、僕は君を苦しめた」

葵:「でも、変わろうとしている。それが大事」

蓮:「ありがとう...」

葵:「それに...私も完璧じゃない。あなたを許せる私にも、問題があるのかもしれない」

蓮:「そんなことない! 君は...」

感情的になりかける蓮。深呼吸して落ち着く。

蓮:「ごめん。また感情的に...」

葵:「大丈夫です。感情を持つことは悪いことじゃありません」



○カフェ前 夜19時

雨が止み、別れる時間。

蓮:「今日は...楽しかった」

葵:「私も」

蓮:「また...会える?」

葵:「もちろん」

蓮:「次は2週間後くらいがいいかな。焦らないように」

葵:「わかりました」

二人、手を伸ばしそうになるが、我慢する。

蓮:「じゃあ、また」

葵:「また」

それぞれ、反対方向へ歩いていく。

何度も振り返る二人。



○蓮の自宅 夜22時

カウンセラーに報告の電話。

蓮:「今日、会いました」

カウンセラー(電話音声):「どうでしたか?」

蓮:「大丈夫でした。執着せず、彼女を尊重できた」

カウンセラー(電話音声):「素晴らしい!」

蓮:「でも...触れたい衝動は強かった」

カウンセラー(電話音声):「でも我慢できた。それが成長です」


○葵のアパート 夜22時

美咲に電話している葵。

葵:「会ってきた」

美咲(電話音声):「どうだった?」

葵:「すごく...良かった。彼、本当に変わってた」

美咲(電話音声):「それは良かった」

葵:「でもね...やっぱり好きだって再確認した」

美咲(電話音声):「それって、いいことでしょ?」

葵:「うん。でも、まだ時間がかかりそう」

美咲(電話音声):「焦らないでね」


○美術館 2週間後

約束通り、2週間後に再会する二人。

蓮:「この絵、綺麗だね」

葵:「本当に」

並んで絵画を見る。

距離は近いが、触れない。

蓮:「次は...いつ会える?」

葵:「1週間後は?」

蓮:「いいね。少しずつ、頻度を上げていこう」

葵:「はい」



○心療内科 カウンセリングルーム 5ヶ月後

カウンセラー:「葵さんと、定期的に会っているそうですね」

蓮:「はい。週に一度」

カウンセラー:「問題は?」

蓮:「ありません。健全な関係を築けています」

カウンセラー:「素晴らしい。では、そろそろ接触してもいいかもしれません」

蓮:「接触...?」

カウンセラー:「手を繋ぐ、ハグをする。身体的な接触です」

蓮:「でも...それで執着が...」

カウンセラー:「大丈夫です。あなたは準備ができています」



○公園 夕暮れ時

ベンチに座る二人。

蓮:「葵...手を繋いでもいい?」

葵:「!」

蓮:「カウンセラーが、もう大丈夫だって」

葵:「...はい」

恐る恐る、手を繋ぐ二人。

蓮:「温かい...」

葵:「蓮さん...」

蓮:「ありがとう。こんな僕を受け入れてくれて」

涙を流す蓮。

葵:「私こそ...」

二人、初めて抱きしめ合う。

蓮:「愛してる」

葵:「私も愛してます」