○心療内科 カウンセリングルーム 1週間後

蓮が真剣な表情でカウンセラーと話している。以前より頻度を増やし、週3回通っている。

カウンセラー:「この一週間、どうでしたか?」

蓮:「葵のことを考えない時間が増えました」

カウンセラー:「素晴らしい進歩です」

蓮:「でも...まだ夜は苦しい」

カウンセラー:「具体的には?」

蓮:「彼女が無事か、心配になる。確認したくなる」

カウンセラー:「その衝動に、どう対処していますか?」

蓮:「深呼吸して、日記を書きます」



○蓮の自宅 夜22時 同日

デスクで日記を書く蓮。

「Day 7

今日も葵のことを考えてしまった。彼女は元気だろうか。ちゃんと食べているだろうか。

でも、確認してはいけない。それは彼女への信頼の欠如だ。

彼女は一人でも大丈夫。僕が守らなくても、生きていける。

それを受け入れることが、真の愛だと学んだ。」

蓮:「少しずつ...少しずつだ」




○白川出版社 編集部 同時刻

残業している葵。

佐々木:「葵ちゃん、また残業? 最近多いね」

葵:「新しいプロジェクトが忙しくて」

佐々木:「無理しないでね」

葵:「大丈夫」

実は、蓮のことを考えないよう、仕事に没頭している葵。

葵:「(彼、ちゃんと治療してるかな...)」



○神崎コーポレーション 社長室 翌日昼12時

田中秘書が資料を持ってくる。

田中秘書:「社長、今月の業績報告です」

蓮:「ありがとう」

田中秘書:「社長...最近、本当に変わりましたね」

蓮:「そうか?」

田中秘書:「はい。以前は常に張り詰めていましたが、今は穏やかです」

蓮:「治療の効果だと思う」

田中秘書:「葵さんのことは...」

蓮:「考えないようにしている。いや、考えるが、執着しないようにしている」

田中秘書:「素晴らしいです」



○蓮の自宅 夜23時

ベッドで横になる蓮。しかし眠れない。

蓮:「葵...今日は何をしていたんだろう...」

スマートフォンを手に取る。葵の番号が表示される。

蓮:「電話したい...声が聞きたい...」

指が震える。

蓮:「ダメだ...約束したんだ...」

スマートフォンを遠くに置く。

蓮:「我慢だ...これも愛の形だ...」



○心療内科 カウンセリングルーム 1ヶ月後

カウンセラー:「1ヶ月が経ちましたね」

蓮:「はい」

カウンセラー:「この間、接触は?」

蓮:「一度もありません」

カウンセラー:「素晴らしい。監視も?」

蓮:「していません。衝動は何度もありましたが、我慢しました」

カウンセラー:「あなたは大きく成長しています」

蓮:「でも...まだ苦しい」

カウンセラー:「それは自然です。愛する人と離れているのだから」

蓮:「いつ...会えるでしょうか」

カウンセラー:「焦らないでください。完全に健康になってから」



○葵のアパート 夜21時 同日

葵が手紙を書いている。ただし、送らない手紙。

「蓮さんへ

1ヶ月が経ちました。あなたは元気ですか?

私は元気です。仕事も順調。毎日充実しています。

でも、あなたのことを考えない日はありません。

会いたい。話したい。でも、約束だから。

頑張ってください。私も頑張ります。

愛を込めて、葵」

葵:「送れない...でも、書くことで気持ちが落ち着く」

手紙を引き出しにしまう。すでに30通以上溜まっている。



○カフェ 日曜日昼14時

美咲と会う葵。

美咲:「で、神崎さんとは?」

葵:「連絡取ってない。約束だから」

美咲:「つらくない?」

葵:「つらいよ。でも、これが必要なの」

美咲:「本当に待つの? 何年かかるかわからないのに」

葵:「待つ。それが私の選択」

美咲:「...わかった。応援するよ」

葵:「ありがとう」



○心療内科 グループセラピールーム 水曜日夜19時

蓮が初めて、グループセラピーに参加している。

同じような問題を抱える人たちが集まっている。

参加者A:「僕も恋人を束縛しすぎて、別れました」

参加者B:「私は友人を監視して、縁を切られました」

一人ずつ、自分の経験を語る。

蓮の番が来る。



○心療内科 グループセラピールーム 夜19時30分

蓮:「僕は...愛する人を、監視し続けました」

全員が静かに聞いている。

蓮:「彼女の全てを知りたかった。守りたかった。でも、それは愛じゃなかった」

蓮:「支配であり、自分の不安を満たすためだけの行為でした」

参加者C:「今は?」

蓮:「治療を受けています。彼女とは距離を置いています」

参加者A:「つらいですか?」

蓮:「地獄のように。でも、これが正しい道だと信じています」

カウンセラー:「素晴らしい。それが第一歩です」



○街中 土曜日昼13時

買い物をしている葵。

遠くから、蓮の姿が見える。

しかし蓮は葵に気づいていない。友人らしき男性と笑って話している。

葵:「(楽しそう...良かった...)」

近づくことはせず、その場を離れる葵。

葵:「(私がいなくても、彼は大丈夫なんだ...)」

少し寂しさを感じながらも、安心する葵。



○カフェ 昼13時30分

友人と別れた後、ふと違和感を感じる蓮。

蓮:「今...葵がいたような...」

周りを見回すが、姿はない。

蓮:「気のせいか...」

蓮:「(会いたい...でも、ダメだ)」

カウンセラーから教わった呼吸法を実践する。

蓮:「大丈夫...彼女は元気だ...」



○心療内科 カウンセリングルーム 2ヶ月後

カウンセラー:「2ヶ月、よく頑張りましたね」

蓮:「ありがとうございます」

カウンセラー:「最近の状態は?」

蓮:「だいぶ楽になりました。彼女のことは考えますが、確認したい衝動は減りました」

カウンセラー:「素晴らしい進歩です」

蓮:「でも...これで治ったと言えますか?」

カウンセラー:「まだです。再発のリスクもあります」

蓮:「...そうですか」

カウンセラー:「焦らないでください。あなたは確実に前進しています」



○葵のアパート 夜22時 同日

ソファで座り込む葵。

葵:「もう2ヶ月...」

スマートフォンを見る。蓮の番号。

葵:「連絡してもいいかな...いや、ダメだ」

葵:「彼の治療の邪魔をしちゃいけない」

美咲に電話をかける。

美咲(電話音声):「どうしたの?」

葵:「つらくて...会いたくて...」

美咲(電話音声):「葵...」

葵:「でも、我慢しなきゃ...」



○蓮の自宅 朝7時 蓮の誕生日

目を覚ます蓮。今日は28歳の誕生日。

蓮:「誕生日か...」

去年は葵のことで頭がいっぱいだった。今年は違う。

蓮:「一人でも、大丈夫だ」



○蓮の自宅 昼12時

スマートフォンに通知。葵からのメッセージ。

「お誕生日おめでとうございます。これだけは送らせてください。元気でいてください。葵」

蓮、画面を見つめる。涙が溢れる。

蓮:「葵...」

返信しようとするが、やめる。

蓮:「ありがとう...それだけで十分だ」



○葵のアパート 朝7時 1週間後 葵の誕生日

目を覚ます葵。24歳の誕生日。

スマートフォンを見ると、蓮からのメッセージ。

「お誕生日おめでとう。君の幸せを祈っています。蓮」

葵:「蓮さん...」

嬉しくて、悲しくて、涙が止まらない。

葵:「会いたい...」



○心療内科 カウンセリングルーム 3ヶ月後

カウンセラー:「3ヶ月ですね」

蓮:「はい。正直、ここまで来れるとは思いませんでした」

カウンセラー:「どうですか?今の気持ちは」

蓮:「葵を愛しています。でも、以前のような執着ではありません」

カウンセラー:「どう違いますか?」

蓮:「彼女の幸せを、本当に願えるようになりました。たとえ僕と一緒でなくても」

カウンセラー:「それは大きな成長です」

蓮:「でも...会いたい気持ちは変わりません」

カウンセラー:「それは自然です。もう少し、時間をかけましょう」



○神崎コーポレーション 社長室 翌日

田中秘書:「社長、提案があります」

蓮:「何だ?」

田中秘書:「葵さんに、手紙を書いてみては?」

蓮:「手紙?」

田中秘書:「直接会うのは難しい。でも、想いを伝えることは大切です」

蓮:「...そうだな」

田中秘書:「カウンセラーにも相談してみてください」

蓮:「わかった」


○蓮の自宅 夜23時

蓮が手紙を書いている。

「葵へ

3ヶ月が経ちました。

毎日、君のことを考えています。でも、以前のような苦しい執着ではありません。

君の幸せを願う、穏やかな愛です。

カウンセリングを続けています。グループセラピーにも参加しています。

少しずつですが、変わっています。

君が待っていてくれることが、僕の支えです。

もう少し、時間をください。

必ず、健康な心で君の元に戻ります。

愛を込めて、蓮」

蓮:「これを...送ろう」



○葵のアパート 3日後

蓮からの手紙が届く。

読んで、涙を流す葵。

すぐに返事を書く。

「蓮さんへ

手紙、ありがとうございました。

あなたの成長を感じて、嬉しいです。

私も待っています。何年でも。

焦らないでください。ゆっくりで大丈夫です。

いつか、健康な二人で会いましょう。

その日を楽しみにしています。

愛を込めて、葵」