○白川出版社 編集部 朝9時 2ヶ月後

葵が普通に仕事をしている。以前より表情も明るい。

佐々木:「葵ちゃん、最近調子良さそうだね」

葵:「うん。やっと落ち着いてきた」

佐々木:「良かった。あの件も解決したし」

葵:「そうだね...」

蓮のことを思い出すが、すぐに気持ちを切り替える。



○神崎コーポレーション 社長室 同時刻

復帰した蓮。以前より穏やかな表情で仕事をしている。

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、業績が回復してきました」

蓮:「よかった。みんなの努力のおかげだ」

田中秘書:「社長も、随分変わられましたね」

蓮:「カウンセリングの効果かな」

田中秘書:「葵さんのことは...?」

蓮:「もう思い出さないようにしている。彼女の幸せを願うだけだ」

しかし、その表情には寂しさが滲む。



○繁華街 夜20時

残業を終えて帰る葵。少し暗い道を歩いている。

後ろから、誰かがつけてくる気配。

葵:「(気のせい...?)」

振り返るが、誰もいない。

葵:「(疲れてるのかな...)」

歩き続ける。



○路地裏 夜20時15分

近道をしようと路地裏に入る葵。

突然、後ろから男が現れ、葵を掴む。

男:「静かにしろ」

葵:「やめて!」

もみ合いになる。

男がナイフを取り出す。

男:「金を出せ!」

葵:「!」



○路地裏 夜20時20分

葵がバッグを投げ、逃げようとする。

しかし、男が葵の腕を掴む。

男:「逃げんな!」

ナイフが葵の腕をかすめる。血が流れる。

葵:「きゃあ!」

その時、路地の入口から車のライトが照らされる。



○路地裏 夜20時25分

車から降りてくる人影。蓮だ。

蓮:「彼女から離れろ!」

男:「誰だお前!」

蓮、男に向かって走る。格闘の末、男を地面に組み伏せる。

蓮:「動くな!」

すぐに警察に電話をかける蓮。

葵は地面に座り込み、震えている。

蓮:「葵!」

駆け寄ろうとするが、接近禁止を思い出し、躊躇する。



○路地裏 夜20時40分

警察と救急車が到着。

男は逮捕される。

救急隊員が葵の傷を手当てしている。

救急隊員:「浅い傷ですが、病院で診てもらった方が」

葵:「はい...」

蓮は少し離れた場所から見守っている。

警察官が蓮に話を聞く。

警察官:「あなたが助けたんですね」

蓮:「偶然、通りかかって」

警察官:「被害者の方とは?」

蓮:「...知人です」



○路地裏 夜21時

救急車に乗る前、葵が蓮を見る。

葵:「蓮さん...」

蓮も葵を見つめる。

蓮:「大丈夫...もう安全だから」

葵:「どうして...ここに...」

蓮:「偶然だ。本当に」

二人、言葉が続かない。

救急隊員が葵を促す。

救急隊員:「では、病院に行きましょう」

葵:「...ありがとうございました」

蓮に向かって頭を下げ、救急車に乗り込む。



○路地裏 夜21時15分

救急車が去った後、一人残る蓮。

蓮:「また...助けてしまった...」

蓮:「偶然じゃない。僕は...」

携帯を取り出す。画面には、葵の会社周辺の地図。

蓮:「見守っていた...遠くから...」

自分を責める蓮。

蓮:「これじゃ、また同じだ...」



○病院 診察室 夜22時

葵の腕を縫合する医師。

医師:「幸い、浅い傷です。一週間で治ります」

葵:「ありがとうございます」

医師:「怖かったでしょう」

葵:「はい...でも、助けてくれた人がいて...」

蓮の顔を思い浮かべる。

葵:「(なぜ、あの場所に...)」



○病院 待合室 夜22時30分

警察官が葵に事情を聞いている。

警察官:「助けてくれた男性は、神崎蓮さんですね」

葵:「はい...」

警察官:「あなたとは、接近禁止命令が出ていると聞きましたが」

葵:「はい。でも、彼が近づいたわけじゃありません。偶然です」

警察官:「本当に偶然ですか?」

葵:「...はい」

実は葵も疑問を感じているが、蓮を庇う。



○警察署 取調室 夜23時

蓮も警察で事情を聞かれている。

刑事:「なぜ、あの場所にいたんですか?」

蓮:「偶然、通りかかりました」

刑事:「偶然? 接近禁止命令を受けているのに?」

蓮:「彼女がそこにいるとは知りませんでした」

刑事:「本当ですか?」

蓮:「...」

刑事:「神崎さん、正直に答えてください」

蓮:「...見守っていました」

刑事:「見守る?」

蓮:「遠くから。彼女の安全を確認するだけ」

刑事:「それは監視では?」

蓮:「...そうかもしれません」



○警察署 取調室 夜23時30分

蓮:「でも、接触はしていません。ただ、無事に帰るのを確認していただけです」

刑事:「それは接近禁止命令違反です」

蓮:「わかっています。罰を受けます」

刑事:「なぜそんなことを?」

蓮:「彼女が心配だったからです」

刑事:「まだ諦めていないと?」

蓮:「...愛してはいます。でも、彼女を苦しめるつもりはありません」

刑事:「矛盾していませんか?」

蓮:「わかっています。僕は...まだ治っていない...」


○警察署 相談室 深夜0時

葵が警察署に呼ばれる。

警察官:「神崎さんが、あなたを見守っていたと認めました」

葵:「...」

警察官:「接近禁止命令違反です。再度起訴すべきでは?」

葵:「いいえ」

警察官:「え?」

葵:「彼は私を助けてくれました。接触もしていません」

警察官:「しかし、監視は...」

葵:「お願いします。今回は見逃してください」

警察官:「...あなたが被害者ですから。あなたが望むなら」

葵:「ありがとうございます」



○警察署前 深夜1時

厳重注意を受けて釈放される蓮。

外に出ると、葵が待っていた。

蓮:「葵...!」

葵:「...」

二人、少し距離を置いて向き合う。

蓮:「なぜ、また庇ってくれたんだ?」

葵:「あなたが助けてくれたから」

蓮:「でも、僕はまた君を監視していた...」

葵:「わかってます」



○警察署前 深夜1時15分

葵:「蓮さん、カウンセリング続けてるんですよね?」

蓮:「ああ。でも...まだダメだ」

葵:「どうして見守っていたんですか?」

蓮:「君が心配で...離れていても、安全を確認したくて...」

葵:「それは...」

蓮:「わかってる。また同じことだ。僕は変われていない」

葵、蓮に近づく。ただし、接触しない距離。

葵:「でも、以前とは違います」

蓮:「違う?」

葵:「以前は、私をコントロールしようとしていた。でも今は、ただ見守っていただけ」

蓮:「それも間違っている」

葵:「間違ってます。でも...少しは進歩してる」



○警察署前 深夜1時30分

蓮:「葵...僕は、まだ君を愛している」

葵:「...」

蓮:「でも、もう近づかない。今日のことで、よくわかった」

葵:「蓮さん...」

蓮:「僕はまだ治療が必要だ。君と一緒にいられる人間じゃない」

葵:「私は...」

蓮:「何も言わなくていい。君は自由だ。僕のことは忘れて」

蓮、去ろうとする。

葵:「待って!」

蓮、振り返る。

葵:「私も...あなたを愛しています」

蓮、驚きで固まる。



○警察署前 深夜1時45分

蓮:「何を...言って...」

葵:「最初は怖かった。でも、変わろうとするあなたを見て...本気で愛してるって分かって...」

蓮:「でも、僕は君を...」

葵:「苦しめた。わかってます。でも、今は違う」

蓮:「葵...」

葵:「すぐに一緒にいようとは言いません。でも...」

蓮:「でも?」

葵:「待ちます。あなたが本当に治るまで」

蓮:「そんな...君を待たせるわけには...」

葵:「私が決めたことです」



○警察署前 深夜2時

蓮:「葵...本当にいいのか?」

葵:「はい」

蓮:「時間がかかるかもしれない。何年も」

葵:「待ちます」

蓮:「なぜ...そこまで...」

葵:「あなたが私を愛してくれたように、私もあなたを愛しているから」

蓮、涙が溢れる。

蓮:「ありがとう...必ず、治す」

葵:「約束してください。もう二度と、監視しないと」

蓮:「約束する」

葵:「そして、完全に健康になったら、また会いましょう」

蓮:「...ああ」

二人、手を伸ばしそうになるが、触れない。

蓮:「じゃあ...また」

葵:「また、いつか」


○蓮の自宅 朝7時

一睡もせず、窓の外を見ている蓮。

蓮:「葵が...待っていてくれる...」

カウンセラーの予約を入れる。

蓮:「必ず治す。彼女のために。いや、自分のために」



○葵のアパート 朝7時

同じく眠れなかった葵。

葵:「待つって決めた...」

美咲に電話をかける。

美咲(電話音声):「こんな朝早く...どうしたの?」

葵:「報告があるの」

美咲(電話音声):「報告?」

葵:「私、蓮さんを待つことにした」

美咲(電話音声):「...は?」

長い説明が始まる。