○警察署前 翌朝10時

弁護士に付き添われて出てくる蓮。48時間の留置後、保釈された。

報道陣が殺到する。

記者A:「神崎社長! ストーカー行為について!」

記者B:「被害者との関係は!?」

弁護士が記者を制する。

弁護士:「コメントはありません」

車に乗り込む蓮。憔悴しきった様子。



○神崎コーポレーション 会議室 昼12時

取締役会が開かれている。蓮も出席。

取締役A:「社長、この事態をどう説明するのですか?」

蓮:「申し訳ありません。全て私個人の問題です」

取締役B:「個人の問題では済みません! 株価が暴落しています!」

取締役C:「社長職を一時的に退くべきでは?」

蓮:「...わかりました」

取締役A:「え?」

蓮:「謹慎処分を受け入れます。当面、副社長に業務を任せます」

取締役たち:「...」

蓮の素直な態度に、取締役たちも驚く。



○白川出版社 編集部 同時刻

デスクで仕事をする葵。しかし集中できない。

ネットニュースに、蓮の逮捕が大きく報道されている。

佐々木:「葵ちゃん...これ...」

記事を見せる佐々木。

葵:「...見たくない」

佐々木:「でも...被害者ってあなたのこと?」

葵:「...」

佐々木:「大変だったね...」

葵、何も言えない。



○葵のアパート 夕方18時

帰宅すると、検察庁からの手紙が届いている。

葵:「起訴...するかどうかの意思確認...」

手紙を読む葵。

「被害者として、起訴を望みますか? それとも示談を受け入れますか?」

葵:「起訴...すれば、彼は前科が...」

悩む葵。

美咲に電話をかける。



○美咲のアパート 夜19時

美咲の部屋で相談する葵。

美咲:「起訴すべきだよ。彼は犯罪者なんだから」

葵:「でも...」

美咲:「またでも? 葵、あなた甘すぎるよ」

葵:「彼...変わろうとしてたの。本当に」

美咲:「それでも、やったことは消えないよ」

葵:「わかってる...」

美咲:「じゃあ、なぜ躊躇するの?」

葵:「...まだ、好きだから」

美咲、驚く。

美咲:「は? 今、何て?」

葵:「私...彼のことが好きなの...」



○美咲のアパート 夜19時30分

美咲:「信じられない...あんなことされて...」

葵:「自分でもおかしいと思う。でも、心が...」

美咲:「それって、ストックホルム症候群じゃないの?」

葵:「違う! 彼が変わろうとしてる姿を見て...本気で私を愛してるって...」

美咲:「愛? あれが?」

葵:「間違った愛だった。でも、気づいて変わろうとしてた」

美咲:「葵...あなた、洗脳されてるよ」

葵:「違う!」

険悪な空気。

美咲:「...ごめん。でも心配なんだよ」

葵:「ありがとう...でも、これは私が決めることだから」


○葵のアパート 夜22時

帰宅すると、郵便受けに一通の手紙。

差出人は蓮。接触禁止のはずが、手紙だけは届いている。

葵:「読むべき...?」

迷った末、開封する。



○葵のアパート 夜22時15分

手紙を読む葵。

「葵へ

この手紙が最後になります。接触禁止命令を受けているので、もう二度と連絡することはありません。

まず、心から謝罪します。僕の行動は、愛ではなく支配でした。君を苦しめ、恐怖を与えました。許されることではありません。

カウンセリングを通じて、やっと理解しました。愛とは相手を尊重し、自由を与えることだと。

でも、気づいたときには遅すぎました。

君は僕にとって、唯一の光でした。でも、その光を自分の手で消してしまった。

これから僕は、罰を受けます。どんな判決でも受け入れます。それが君への償いだから。

最後に、一つだけ。

君を愛していました。本当に。

でも、もう君を苦しめたくありません。

だから、さようなら。

幸せになってください。

蓮」

葵、涙が止まらない。

葵:「蓮さん...」



○葵のアパート 深夜0時

一晩中考えた葵。朝になる。

葵:「私...どうしたい?」

鏡を見る。

葵:「彼を許したい...でも、それは正しいの?」

検察庁への返答書類を見る。

葵:「起訴する?しない?」

ペンを持つ手が震える。



○検察庁 相談室 翌日午前10時

検察官と面談する葵。

検察官:「意思は決まりましたか?」

葵:「はい...」

検察官:「どちらを?」

葵:「起訴は...望みません」

検察官:「示談を受け入れると?」

葵:「はい。ただし、条件があります」

検察官:「どのような?」

葵:「二度と私に近づかないこと。そして、きちんと治療を続けること」

検察官:「わかりました。先方に伝えます」



○蓮の自宅 昼12時

弁護士から連絡が入る。

弁護士(電話音声):「神崎さん、良いニュースです」

蓮:「何ですか?」

弁護士(電話音声):「被害者の葵さんが、起訴を望まないと」

蓮:「!」

弁護士(電話音声):「示談で解決する方向です」

蓮:「そんな...なぜ...」

弁護士(電話音声):「ただし、条件があります」

蓮:「聞かせてください」

弁護士(電話音声):「二度と接触しないこと。治療を継続すること」

蓮:「...もちろんです」

電話を切った後、涙を流す蓮。

蓮:「葵...君は...なんて優しいんだ...」



○弁護士事務所 午後15時

双方の弁護士が示談書を作成している。葵と蓮は別室にいる。

葵の弁護士:「これで、接近禁止命令も正式に発効します」

葵:「はい...」

葵の弁護士:「本当にいいんですか? 慰謝料も請求できますよ」

葵:「いりません」

葵の弁護士:「...わかりました」



○弁護士事務所 別室 同時刻

蓮も別の部屋で待機している。

蓮の弁護士:「示談が成立すれば、前科はつきません」

蓮:「彼女に...会えませんか?」

蓮の弁護士:「無理です。接近禁止です」

蓮:「...そうですか」

蓮の弁護士:「神崎さん、運が良かったですよ。普通なら起訴されます」

蓮:「運じゃない。彼女の優しさです」



○弁護士事務所 廊下 午後16時

示談書にサインを終え、それぞれ部屋を出る。

廊下で、遠くから視線が合う二人。

言葉は交わせない。ただ、見つめ合う。

葵、小さく頭を下げる。

蓮も深く頭を下げる。

そして、それぞれ反対方向へ歩いていく。

葵:「(さようなら...)」

蓮:「(ありがとう...そして、ごめん...)」



○神崎コーポレーション 会議室 1週間後

取締役会が再び開かれている。

取締役A:「示談が成立したそうですね」

蓮:「はい。被害者の方の寛大な措置により」

取締役B:「では、社長職に復帰を?」

蓮:「いえ。当面は謹慎を続けます」

取締役C:「なぜです?」

蓮:「まだ治療中ですから。完全に回復するまで、会社を危険にさらすわけにはいきません」

取締役A:「...立派な判断です」



○白川出版社 編集部 同時刻

通常業務に戻る葵。

佐々木:「葵ちゃん、大丈夫?」

葵:「うん。もう大丈夫」

佐々木:「無理してない?」

葵:「してないよ。これからは、前を向いて生きる」

表面的には明るく振る舞う葵。しかし、心の中は複雑。



○心療内科 蓮のカウンセリング

カウンセラー:「示談になって、良かったですね」

蓮:「彼女には感謝しかありません」

カウンセラー:「まだ彼女を愛していますか?」

蓮:「...はい。でも、もう近づきません」

カウンセラー:「それが第一歩です」



○別の心療内科 同日

葵もカウンセリングを受け始めている。

カウンセラー:「なぜ起訴しなかったのですか?」

葵:「彼を...罰したくなかったんです」

カウンセラー:「まだ愛していると?」

葵:「...わかりません。でも、憎めないんです」

カウンセラー:「それは自然な感情です。時間をかけて整理しましょう」



○街中 1ヶ月後 夕方17時

買い物をしていた葵。遠くに、蓮の姿を見かける。

蓮も葵に気づく。

しかし、接近禁止命令があるため、近づけない。

お互い、その場に立ち尽くす。

蓮、小さく会釈して、反対方向へ歩いていく。

葵、その背中を見つめる。

葵:「(元気そう...良かった...)」

涙が溢れる。

葵:「(でも...会えない...)」



○蓮の自宅 夜22時

カウンセリングのノートを書いている蓮。

「今日、葵を見かけた。元気そうで安心した。でも、話すことはできなかった。

これでいい。これが正しい。

彼女の幸せを、遠くから祈るだけだ。」

蓮:「葵...幸せに...」



○葵のアパート 夜22時

日記を書く葵。

「今日、蓮さんを見かけた。痩せていた。でも、目には以前のような狂気はなかった。

会いたかった。話したかった。

でも、それは許されない。

これで良かったの? 本当に?」

葵:「わからない...」

窓の外を見る。月が綺麗だ。

葵:「蓮さん...同じ月を見てるかな...」