○神崎コーポレーション 社長室 朝9時

窓の外を見つめる蓮。最近の葵と隼人の親密さに苦しんでいる。

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、エトワールについて新しい情報があります」

蓮:「何だ?」

田中秘書:「隼人さんが、近々パリ本社に栄転する可能性があるそうです」

蓮の目が光る。

蓮:「栄転...?」

田中秘書:「はい。業績が評価されたようです」

蓮:「...そうか」



○神崎コーポレーション 社長室 昼12時

一人、考え込む蓮。

蓮:「隼人がパリに行けば...葵との距離が開く...」

蓮:「でも、それは彼女のためか? 自分のためか?」

カウンセラーの言葉を思い出す。

カウンセラー(回想音声):「相手を操作しようとする衝動に気をつけてください」

蓮:「操作...違う。これは...」

悩む蓮。しかし、最終的に電話をかける。

蓮:「エトワール本社の社長と、アポイントを取ってくれ」

田中秘書(電話音声):「承知しました」


○エトワール日本支社 オフィス 午後15時

隼人が上司に呼ばれる。

上司:「隼人、本社から連絡があった」

隼人:「はい」

上司:「パリ本社への栄転の話だ」

隼人:「!」

上司:「君の日本での業績が高く評価されている。アジア統括マネージャーのポジションだ」

隼人:「それは...光栄ですが...」

上司:「どうした??昇進のチャンスだぞ」

隼人:「実は...日本に残りたい理由があって...」

上司:「葵さんのことか?」

隼人、黙る。

上司:「わかった。すぐに決めなくていい。1週間考えてくれ」



○カフェ 夕方18時

一人、コーヒーを飲む隼人。深く考え込んでいる。

隼人:「パリ...キャリアとしては最高のチャンスだ...」

隼人:「でも、葵さんを置いていけない...」

隼人:「それに、神崎がいる限り...」

スマートフォンを見る。葵との写真。

隼人:「葵さん...どうすればいい...」



○レストラン 夜19時

隼人が葵を食事に誘っている。

隼人:「実は、相談があって...」

葵:「何ですか?」

隼人:「パリ本社への栄転の話が来たんです」

葵:「!それはすごいことじゃないですか!」

隼人:「でも...」

葵:「でも?」

隼人:「日本を離れることになります」

葵、表情が曇る。

葵:「そうですか...」

隼人:「葵さん...一緒に来てくれませんか?」

葵:「え...?」



○レストラン 夜19時15分

隼人:「僕と結婚して、パリで一緒に暮らしませんか?」

葵:「隼人さん...!」

隼人:「突然で驚かせてすみません。でも、本気です」

葵:「でも、私には仕事が...」

隼人:「パリでも仕事は見つかります。それに、新しい環境で新しいスタートを」

葵:「...」

隼人:「神崎さんからも離れられます」

葵、複雑な表情。

葵:「考えさせてください...」

隼人:「もちろん。でも、1週間以内に答えがほしいんです」

葵:「わかりました...」



○葵のアパート 夜22時

帰宅した葵、ソファに座り込む。

葵:「結婚...パリ...」

葵:「隼人さんとなら、幸せになれる...たぶん...」

葵:「でも...」

蓮の顔が浮かぶ。

葵:「なんで...今、彼のことを...」

頭を抱える葵。

葵:「どうしよう...」

美咲に電話をかける。



○美咲のアパート 夜23時

急いで駆けつけた美咲。

美咲:「結婚!? しかもパリ!?」

葵:「うん...」

美咲:「それってすごいことじゃん! 隼人さん、本気だよ」

葵:「わかってる...でも...」

美咲:「まさか、まだ神崎さんのこと?」

葵:「...」

美咲:「葵、あなた神崎さんのこと好きなの?」

葵:「わからない! 自分でもわからないの!」

美咲:「じゃあ、確かめなきゃ」

葵:「どうやって?」

美咲:「会って話す。それしかないよ」



○葵のアパート 深夜0時

葵、震える手でスマートフォンを持つ。

蓮にメッセージを送る。

「明日、お時間ありますか? 話したいことがあります」

送信してから、心臓がドキドキする。

葵:「送っちゃった...」

すぐに返信が来る。

「もちろん。いつでも。どこがいい?」

葵:「(即レス...起きてたんだ...)」



○公園 翌日昼12時

ベンチで待つ蓮。少し緊張している様子。

葵が現れる。

蓮:「来てくれてありがとう」

葵:「お忙しいのに、すみません」

蓮:「君のためなら、いつでも時間を作る」

二人、ベンチに座る。



○公園 昼12時15分

葵:「実は...隼人さんから、プロポーズされました」

蓮の表情が一瞬凍りつく。

蓮:「...そうか」

葵:「パリに一緒に来てほしいと」

蓮:「それは...素晴らしい機会だね」

葵:「蓮さん...」

蓮:「彼は君を大切にしてくれる。いい人だ」

葵:「でも...」

蓮:「でも?」

葵:「答えが出せないんです」

蓮:「なぜ?」

葵、蓮をまっすぐ見る。

葵:「あなたのことが、忘れられないからです」



○公園 昼12時30分

蓮、信じられないという表情。

蓮:「葵...?」

葵:「最初は、怖かった。あなたの執着が、監視が」

蓮:「...」

葵:「でも、変わろうとしているあなたを見て...」

蓮:「待って」

蓮、立ち上がる。

蓮:「それは、同情じゃないのか?」

葵:「同情?」

蓮:「僕が可哀想だから。過去があるから。そういう気持ちじゃないのか?」

葵:「違います!」

蓮:「本当に?」

葵:「本当に...わからないんです。でも、あなたを見ると、胸が苦しくなるんです」


○公園 昼12時45分

蓮:「葵...僕は、君を愛している」

葵:「...」

蓮:「でも、君を苦しめたくない」

葵:「蓮さん...」

蓮:「隼人と結婚して、幸せになってほしい」

葵:「え...?」

蓮:「それが、本当の愛だと学んだ」

涙を浮かべる蓮。

蓮:「君の幸せが、僕の幸せだ」

葵:「でも...」

蓮:「行っておいで。新しい人生へ」

蓮、葵の頭を優しく撫でる。

蓮:「忘れないよ。君のこと、ずっと」

そう言って、去っていく蓮。

葵:「待って! 蓮さん!」

しかし、蓮は振り返らない。


○蓮の車内 昼13時

車の中で、ハンドルに額をつける蓮。

涙が止まらない。

蓮:「葵...!」

蓮:「本当は...一緒にいたい...」

蓮:「でも...これが正しいんだ...」

苦しみに耐える蓮。


○公園 昼13時

ベンチに座ったまま、泣いている葵。

葵:「蓮さん...」

葵:「私...あなたを...」

自分の気持ちに気づく葵。

葵:「好きだ...」

葵:「好きなんだ...!」

しかし、蓮はもういない。



○エトワール日本支社前 夕方18時

隼人を待つ葵。

隼人が出てくる。

隼人:「葵さん? どうしたんですか?」

葵:「お話があって...」

近くのカフェに入る二人。



○カフェ 夕方18時30分

葵:「隼人さん、本当にありがとうございました」

隼人:「...まさか」

葵:「ごめんなさい。プロポーズ、お断りします」

隼人、覚悟していたような表情。

隼人:「神崎さん、ですか?」

葵:「...はい」

隼人:「そうですか...」

葵:「本当に申し訳ありません。あなたは素晴らしい方です」

隼人:「でも、心は彼に」

葵:「はい...気づくのが遅くて...」



○カフェ 夕方18時45分

隼人:「葵さん、一つだけ教えてください」

葵:「何ですか?」

隼人:「神崎さんが、僕の栄転を仕組んだこと、知っていますか?」

葵:「え...?」

隼人:「彼は、僕を日本から遠ざけるために、本社に働きかけたんです」

葵:「!」

隼人:「調べて分かりました。大口の取引を餌に、僕の栄転を要求したんです」

葵:「そんな...」

隼人:「彼は変わっていません。まだ操作しようとしている」

葵、ショックを受ける。



○神崎コーポレーション前 夜19時30分

怒りに震えながら、蓮の会社に向かう葵。

受付で蓮に連絡してもらう。

すぐに降りてくる蓮。

蓮:「葵?どうして...」

葵:「話があります」

蓮:「ここじゃなんだから、車で...」

葵:「ここでいいです」

蓮:「...」



○神崎コーポレーション前 夜19時45分

葵:「隼人さんの栄転、あなたが仕組んだんですか?」

蓮、黙る。

葵:「答えてください!」

蓮:「...ああ」

葵:「なんで!? 変わったんじゃないんですか!?」

蓮:「変わろうとしている。でも、君を失うのが怖かった」

葵:「結局、操作してるじゃないですか!」

蓮:「わかってる。間違っていた」

葵:「私...あなたを信じようとしてたのに...」

涙を流す葵。

蓮:「ごめん...」

葵:「もういいです。もう二度と...会いたくありません」

蓮:「葵!」

葵:「さようなら」

去っていく葵。

蓮、その場に立ち尽くす。



○蓮の自宅 深夜0時

部屋で一人、うずくまる蓮。

蓮:「やってしまった...また...」

蓮:「僕は...変われない...」

母の写真を見る。

蓮:「母さん...僕は、どうすれば...」

絶望に沈む蓮。