○白川出版社 編集部 月曜日朝9時

週末の取材から戻った葵。デスクに座る。

佐々木が近づいてくる。

佐々木:「お疲れさま。取材どうだった?」

葵:「うん、いい記事が書けそう」

佐々木:「隼人さんとは? 進展あった?」

葵:「進展って...仕事だよ」

佐々木:「そう? 残念」

葵、複雑な表情。

実際は、頭の中は蓮のことでいっぱいだった。


○神崎コーポレーション 社長室 同時刻

カウンセラーと話している蓮。

カウンセラー:「週末、葵さんに会ったそうですね」

蓮:「...はい」

カウンセラー:「どうして?」

蓮:「彼女が危険だと聞いて...放っておけなかった」

カウンセラー:「それは、またコントロールしようとする衝動では?」

蓮:「違います。本当に危険だったんです」

カウンセラー:「そうですか。では、その後は?」

蓮:「すぐに別れました。距離を保ちました」

カウンセラー:「よく頑張りましたね」

蓮:「でも...苦しいです」

カウンセラー:「それは当然です。時間をかけて、少しずつ」




○エトワール日本支社 オフィス 昼12時

隼人が上司と話している。

上司:「隼人、神崎コーポレーションのことだが」

隼人:「はい」

上司:「買収の話、完全に白紙になったそうだ」

隼人:「!本当ですか?」

上司:「ああ。理由は不明だが...君、何か心当たりは?」

隼人:「...いえ」

上司:「まあいい。とにかく良かった」

隼人、一人になると考え込む。

隼人:「神崎が...なぜ?」



○カフェ 昼13時

ランチを取りに来た葵。カフェの列に並んでいる。

前に、蓮がいる。

葵:「!」

蓮も葵に気づく。

蓮:「葵...」

葵:「蓮さん...」

気まずい沈黙。

蓮:「元気そうだね」

葵:「はい...蓮さんも」

蓮:「週末は...大丈夫だった?」

葵:「はい。助けていただいて、ありがとうございました」

蓮:「当然のことを...」

順番が来て、蓮がコーヒーを注文する。

蓮:「じゃあ...」

去ろうとする蓮を、葵が呼び止める。

葵:「あの...少し、お話しできますか?」

蓮、驚く。



○カフェ内 昼13時15分

テーブルに座る二人。

葵:「隼人さんから聞きました。買収、中止したんですね」

蓮:「...ああ」

葵:「なぜですか?」

蓮:「君が望んだことだから」

葵:「でも...それは会社にとって損失では?」

蓮:「君の幸せの方が大事だ」

葵、蓮の真剣な目を見る。

葵:「本当に...変わろうとしてるんですね」

蓮:「頑張ってる。君のために」

葵:「自分のために、って言いましたよね」

蓮:「そうだった。自分のために、頑張ってる」

微笑む蓮。以前とは違う、穏やかな笑顔。

葵:「(この人...本当に変わってきてる...)」


○カフェ内 昼13時30分

蓮:「隼人とは...うまくいってる?」

葵:「また聞くんですね」

蓮:「ごめん。気になって」

葵:「彼は...いい人です」

蓮:「そうか」

葵:「でも...」

蓮:「でも?」

葵:「わからないんです。自分の気持ちが」

蓮、じっと葵を見る。

蓮:「焦らなくていい。ゆっくり考えて」

葵:「蓮さん...」

蓮:「僕は...もう君を束縛しない。君が幸せなら、それでいい」

葵、胸が熱くなる。

葵:「(こんな言葉...前は絶対言わなかった...)」


○カフェ前 昼14時

カフェを出る二人。

蓮:「仕事、頑張って」

葵:「はい。蓮さんも」

蓮:「また...いつか」

葵:「はい」

蓮、去っていく。

葵、その背中を見つめる。

葵:「(また会いたい...そう思ってる自分がいる...)」


○カフェ向かい 同時刻

道の向こうから、葵と蓮を見ていた隼人。

二人が別れる様子を見て、拳を握りしめる。

隼人:「また...会ってた...」

嫉妬に燃える隼人。

隼人:「葵さん...まだ彼を...」



○白川出版社前 夕方18時

退社する葵を待っている隼人。

隼人:「葵さん」

葵:「隼人さん?どうしたんですか?」

隼人:「今日、神崎さんと会いましたね」

葵、驚く。

葵:「見てたんですか?」

隼人:「偶然通りかかって...」

葵:「そうですか...」

隼人:「どうして会ったんですか?」

葵:「偶然カフェで...」

隼人:「その後、二人で話していましたよね」

葵:「...はい」

隼人:「まだ、彼のことが気になるんですか?」




○白川出版社前 夕方18時15分

葵:「気になるって...そういうわけじゃ...」

隼人:「じゃあ、なぜ?」

葵:「お礼を言いたかっただけです。買収を中止してくれたことの」

隼人:「それだけ?」

葵:「はい」

隼人:「嘘ですよね」

葵:「隼人さん...」

隼人:「葵さんの表情、見ました。彼を見る目が...優しかった」

葵、何も言えない。

隼人:「僕は...まだ足りないんですか?」

葵:「そんなことありません」

隼人:「じゃあ、なぜ僕を選んでくれないんですか?」

葵:「それは...」




○白川出版社前 夕方18時30分

葵:「ごめんなさい...今は、答えが出せないんです」

隼人:「いつになったら出せるんですか?」

葵:「わかりません...」

隼人:「神崎さんが変わったら、彼を選ぶんですか?」

葵:「!」

隼人:「やっぱり...そうなんですね」

葵:「違います!自分でもわからないんです!」

涙が溢れる葵。

隼人:「...ごめんなさい。感情的になりました」

葵:「隼人さん...」

隼人:「少し...一人にしてください」

隼人、去っていく。

葵、その場に立ち尽くす。



○神崎コーポレーション 社長室 夜20時

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、報告があります」

蓮:「何だ?」

田中秘書:「隼人さんが、葵さんに詰め寄っていたそうです」

蓮:「!」

田中秘書:「かなり感情的だったと」

蓮、立ち上がる。

蓮:「葵は...大丈夫なのか?」

田中秘書:「泣いていたと聞きました」

蓮:「くそっ...!」


○神崎コーポレーション 社長室 夜20時15分

蓮:「行くべきか...いや、距離を保つべきだ...」

部屋を歩き回る蓮。

蓮:「でも、彼女が泣いている...」

カウンセラーの言葉を思い出す。

カウンセラー(回想音声):「彼女の問題は、彼女が解決すべきです。あなたが介入すべきではありません」

蓮:「わかってる...でも...!」

苦しむ蓮。

最終的に、スマートフォンでメッセージを送る。

「大丈夫? 何かあったら、いつでも連絡して」

送信してから、後悔する。

蓮:「また...連絡してしまった...」



○葵のアパート 夜21時

疲れ果てて帰宅する葵。

スマートフォンを見ると、蓮からのメッセージ。

葵:「蓮さん...」

メッセージを読んで、涙が溢れる。

葵:「なんで...こんなに優しいの...」

返信しようとするが、躊躇する。

葵:「返信したら...また関係が...」

でも、心は蓮を求めている。

結局、返信する。

「ありがとうございます。大丈夫です」


○蓮の自宅 夜22時

葵からの返信を見て、ほっとする蓮。

蓮:「良かった...」

しかし、すぐに自分を戒める。

蓮:「ダメだ。また依存してしまう...」

ベッドに横になる。

蓮:「でも...彼女と繋がっていたい...」




○隼人のアパート 夜22時

窓の外を見ている隼人。

隼人:「感情的になりすぎた...」

葵に電話をかけようとするが、躊躇する。

隼人:「でも...僕の気持ちは本当だ」

隼人:「神崎には...負けない」




○白川出版社 編集部 翌朝10時

出社する葵。隼人も来ている。

目が合うが、すぐに逸らす二人。

佐々木:「あれ? 二人、喧嘩した?」

葵:「...別に」

佐々木:「明らかに変だけど」

気まずい空気が流れる。





○白川出版社 屋上 昼12時30分

昼休み、屋上に呼び出される葵。

隼人が待っている。

隼人:「昨日は、ごめんなさい」

葵:「いえ...」

隼人:「感情的になって、傷つけてしまった」

葵:「私こそ、ちゃんと答えられなくて...」

隼人:「無理に答えなくていいです。でも、一つだけ」

葵:「何ですか?」

隼人:「僕は、諦めません」

葵:「隼人さん...」

隼人:「神崎さんが変わろうとしているのは知っています。でも、僕は最初から葵さんを尊重してきました」

葵:「...はい」

隼人:「どちらを選ぶかは、葵さんが決めることです。でも、僕の気持ちは変わりません」




○神崎コーポレーション 社長室 同時刻

窓から外を見ている蓮。

田中秘書が入ってくる。

田中秘書:「社長、昼食は?」

蓮:「いらない」

田中秘書:「ちゃんと食べないと...」

蓮:「大丈夫だ」

実際は、葵のことで頭がいっぱいで食欲がない。

蓮:「(会いたい...声が聞きたい...)」

しかし、我慢する。

蓮:「(これが...愛だ。彼女の幸せを願うこと)」




○様々な場所 夕方18時

葵は会社で、蓮と隼人のことを考えている。

葵:「(二人とも...私を想ってくれてる...)」

葵:「(でも、私の心は...)」

蓮は社長室で、葵への想いを抑えている。

蓮:「(彼女を自由にしてあげたい...でも、側にいたい...)」

隼人はオフィスで、葵を守る決意を新たにしている。

隼人:「(絶対に、幸せにする...)」

三人の想いが、複雑に絡み合う。



○葵のアパート 夜22時

ベッドで横になる葵。

スマートフォンを見る。蓮からも隼人からも、新しいメッセージはない。

葵:「二人とも...待っていてくれてる...」

葵:「でも、私は...誰を選べばいいの?」

鏡を見る。そこには、迷いに満ちた自分の顔。

葵:「自分の心に...正直にならなきゃ...」

窓の外には、満月が輝いている。