翌日の夜。私は、葛城さんが予約してくれたレストランにいた。
落ち着いた雰囲気のイタリアン。テーブルには、ノンアルコールのスパークリングワインが用意されていた。
葛城さんがグラスを掲げる。
「乾杯しましょう。柊彩葉さん、絵本作家デビューおめでとうございます!」
「ありがとうございます」
グラスがカチンと触れ合う。
一口飲むと、ほんのり甘く爽やかな味が口いっぱいに広がった。
「自分の絵本が出るなんて、まだ夢みたいです」
「夢じゃないですよ。現実です」
葛城さんが、爽やかに微笑む。
「あの美術館で閉じ込められた夜から、もう4ヶ月なんですね」
「ええ。あの60分間が、全ての始まりでした」
葛城さんが、鞄から封筒を取り出す。
「これ、出版契約書の案です。まだ正式じゃないけど、見てください」
私は震える手で封筒を開く。そこには……。
『星降る森のおくりもの
著者:柊彩葉
編集担当:葛城律』
自分の名前が著者として印刷されているのを見た瞬間、視界が滲んだ。
「私の名前……」
「これからあなたは、正真正銘の絵本作家です」
料理が運ばれてきた。食事をしながら、私たちは今後の話をする。



