月明かりの下で、あなたに恋をした


「それじゃあ、スケジュールを立てましょう。3ヶ月かけて、丁寧にブラッシュアップしていきます」

「3ヶ月……」

ぽつりと呟く。

「焦らなくていいです。良いものを作るには、時間が必要です」

「でも、私、仕事が忙しくて。週末も疲れ果てていることが多くて」

不安でいっぱいの私に、葛城さんが微笑む。

「無理しないでください。体調が悪いときは休んでいい。それに、広告の仕事も大切にしてください。そこで学ぶことも、絵本制作に活きるはずです」

私は目を見開く。

「両立、していいんですか?」

「もちろんです。橘マリだって、主婦をしながら絵を描いた。柊さんも、デザイナーをしながら絵本を作ればいい」

私の心が軽くなった。

「ありがとうございます」



それから私たちは3時間、カフェで話し込んだ。作品のこと、仕事のこと、橘マリのこと。

彼と話していると、時間があっという間に過ぎる。葛城さんは聞き上手で、私の拙い言葉を丁寧に受け止めてくれる。そして、的確なアドバイスをくれる。

気づけば、外は夕暮れ時になっていた。

「もうこんな時間ですね」

葛城さんが時計を見る。

「そろそろ、出ましょうか」

私たちは会計を済ませ、カフェを出た。夕日が街をオレンジ色に染めている。

「今日は、ありがとうございました」

お礼を言うと、葛城さんが微笑んだ。

「こちらこそ。素晴らしい作品を見せてもらえて、嬉しかったです」

「次は、いつ……」

「来週の土曜日、同じ時間でどうですか?」

「はい」

私たちは、しばらく立ち話をした。話題が尽きない。彼と一緒にいると、時間があっという間だ。

「柊さん」

葛城さんがふと、真剣な顔つきになった。