「それじゃあ、スケジュールを立てましょう。3ヶ月かけて、丁寧にブラッシュアップしていきます」
「3ヶ月……」
ぽつりと呟く。
「焦らなくていいです。良いものを作るには、時間が必要です」
「でも、私、仕事が忙しくて。週末も疲れ果てていることが多くて」
不安でいっぱいの私に、葛城さんが微笑む。
「無理しないでください。体調が悪いときは休んでいい。それに、広告の仕事も大切にしてください。そこで学ぶことも、絵本制作に活きるはずです」
私は目を見開く。
「両立、していいんですか?」
「もちろんです。橘マリだって、主婦をしながら絵を描いた。柊さんも、デザイナーをしながら絵本を作ればいい」
私の心が軽くなった。
「ありがとうございます」
◇
それから私たちは3時間、カフェで話し込んだ。作品のこと、仕事のこと、橘マリのこと。
彼と話していると、時間があっという間に過ぎる。葛城さんは聞き上手で、私の拙い言葉を丁寧に受け止めてくれる。そして、的確なアドバイスをくれる。
気づけば、外は夕暮れ時になっていた。
「もうこんな時間ですね」
葛城さんが時計を見る。
「そろそろ、出ましょうか」
私たちは会計を済ませ、カフェを出た。夕日が街をオレンジ色に染めている。
「今日は、ありがとうございました」
お礼を言うと、葛城さんが微笑んだ。
「こちらこそ。素晴らしい作品を見せてもらえて、嬉しかったです」
「次は、いつ……」
「来週の土曜日、同じ時間でどうですか?」
「はい」
私たちは、しばらく立ち話をした。話題が尽きない。彼と一緒にいると、時間があっという間だ。
「柊さん」
葛城さんがふと、真剣な顔つきになった。



