「感動しました」
え?
「本当に、素晴らしい作品です」
私は息を呑んだ。
「動物たちの優しさ、少女の孤独。そして、満月の夜の出会い。全てが……心に残る」
葛城さんが私をまっすぐ見た。
「この作品、絶対に形にすべきです」
まさか、そんなふうに言ってもらえるなんて……。
視界がじわりと滲む。
「でも……」
「でも?」
「出版社に、全部断られました。『才能がない』って」
葛城さんが首を横に振った。
「あなたは、才能がないわけがない。この作品には、確かに心がある」
「本当に……そう思いますか?」
「はい」
葛城さんが力強く頷いた。
「ただし、正直に言いますね」
私は身構えた。
「改善できる部分も、あると思います」
「改善……」
「たとえば、動物たちのキャラクター。今は記号的に見えます。もっと個性を出せれば、子どもたちが感情移入しやすくなる」
私は真剣にメモを取る。
「あと、ラストシーン。少女の心の変化を、もう少し丁寧に描けると、読者の共感がより深まると思います」
「なるほど」
葛城さんの指摘は、厳しいけれど的確だ。
「これは、社交辞令じゃないです。プロの編集者として、本気で言っています」
「ありがとうございます」
私は深く頭を下げた。
コーヒーが運ばれてきた。一口飲んで、葛城さんが言った。
「柊さん。もし良かったら……一緒にこの作品を、ブラッシュアップしてみませんか?」
「え?」
予想外のことに、心臓が跳ねた。



