彼は窓の外を見ていたが、私に気づいて手を振ってくれた。
「柊さん!」
彼に名前を呼ばれた途端、私の胸がとくんと一拍大きく高鳴った。
「葛城さん、お久しぶりです」
私は、葛城さんの向かいの席に座った。
3日ぶりだというのに、ずっと長い時間が経ったような気がする。
「3日ぶりですね」
葛城さんが微笑む。その爽やかな笑顔に、私の緊張がほぐれた。
「注文、どうぞ」
お水を持ってきた店員さんが、メニューを見せてくれる。
「ホットコーヒーをお願いします」
「俺もコーヒーで」
店員さんが去った後、葛城さんが真剣な顔になった。
「作品、持ってきてくれましたか?」
「はい」
私はトートバッグから、『星降る森のおくりもの』を取り出した。手作りの製本。色褪せた表紙。
葛城さんは受け取り、表紙を凝視する。
「『星降る森のおくりもの』……いいタイトルですね」
そして、ゆっくりとページをめくり始めた。
ああ、緊張する……。
私は、俯きそうになるのを必死に堪える。
葛城さんは一枚一枚、丁寧に見ている。時々、立ち止まっては、じっくりと絵を見つめる。
その真剣な眼差しに、私の鼓動がさらに速くなる。
葛城さん、どう思っているんだろう。拙い、と思われているのだろうか。それとも……。
10分後、葛城さんが最後のページを閉じた。そして、顔を上げた。
「……」
長い沈黙が続き、ゴクリと唾を飲んだ。
「……葛城さん?」
彼は何か言おうと口を開きかけて、閉じた。
なんで、何も言ってくれないの? やっぱり、ダメだったってこと?
私がぎゅっと目をつむった、そのとき。
「……すみません」
葛城さんが、ようやく口を開いた。



