「庭の千草」狂詩曲

教授に、学内コンサートのピアノ伴奏を報告をしに来た、それだけだ。

睨まれる謂れなどないし、(やま)しいことはしていない。

「周桜宗月、クレアから報告は聞いている。君の噂はよく耳にするが、ずいぶんな自信家だ。クレアの伴奏、君から挙手したそうだな」

「ええ。彼女のヴァイオリンの音色が素晴らしかったので」

「当然だ。クレアはガダニーニを操れる逸材だ」

ガタニーニと聞いて思い当たることがあった。

「もしかして、あの曰く付きのヴァイオリンですか」

俺は思わず、身を乗り出していた。

「そうだ。1758年製作のヴァイオリンだ。『シレーナ』と呼ばれている楽器だ」

俺はゴクリと息を飲みこんだ。

イタリア語で「シレーナ」はギリシャ語で「セイレーン」だ。

海上の岩礁から、舟人を美しい歌声で惑わし、遭難や難破に遭わせると云う。