「庭の千草」狂詩曲

ーー周桜宗月とは血が繋がっていない。あの人は実の親ではなかった

詩月は口元を手の甲で覆ったかと思うと、背中を丸め、前屈みになり、項垂れた。

マスターが何度呼んでも顔を上げなかった。

マスターが詩月の体をギュッと抱きしめた。

「辛かったな。辛かったよな。辛いよな」

詩月を抱きしめたまま、宥めた。

「……お願いだ……あの人をどうか……」

マスターは詩月の手に紅茶カップを握らせた。

「でも詩月、君がいくら焦っても心配しても、宗月自身の頑張りしだいだ。医者は治療を、後は時間が薬だ」

詩月は紅茶カップを両手で持ち、無言で聞いていた。

「宗月は君が居るから頑張れるんだ。君というピアニストが宗月を目標にしているから、頑張れるんだ」

マスターはそうだろうと、同意を求めるように諭した。

「君が生まれた時のことを憶えている。宗月は病院から、日本から真夜中に電話をかけてきた。『無事に生まれた』とね。宗月はお前がいるからピアニスト周桜宗月でいられるんだ。いいな、わかったな」

詩月は紅茶カップを机に置き、喉元まで出かかった言葉を飲みこんだ。