「庭の千草」狂詩曲

泣きたいほど心は叫んでいるのに、涙は1滴も出ない。

詩月は言えない事実に蓋をして、吐き出すのを懸命に耐えた。

ミヒャエルには詩月が立っているのさえも、やっとのように思えた。

「ミヒャエル。立ってないで、座ったら? 野郎同士が抱きついてる絵は、さすがにキモいよ」

「ビアンカ、言い過ぎ」

ビアンカが静まったを和ませようと、わざと言ってみたのに反応し、客が笑い出した。

ミヒャエルが椅子を引き、詩月を座らせると、詩月は力なく椅子に凭れかかった。

「恐いんだ。あの人が元のように、ピアノを弾けなくなるんじゃないか、あの人がいつになったら復帰できるのかと思うと」

詩月は言いながら震えていた。

体が震え顔が強張り、喉が固まっているように気がして、か細い声しか出せない。

マスターが詩月の様子を気遣い、そっと紅茶を勧めた。

「気が急くのも心配なのも解る」