「庭の千草」狂詩曲

詩月は油性ペンを受け取ると、サラサラと漢字とドイツ語で見栄え良くサインした。

「周桜」の名は書かなかった。

書けなかった。

「えっと、周桜Jr.と呼ばれるのはイヤだから、『周桜』は書いてないから」

詩月は、一応伝えた。

「構わないです。その意地、好きなんで。ありがとうございます」

「餌、宜しく」

「はい!」

店員は詩月に向かって、ピンと背を伸ばし敬礼した。

詩月も店員につられ敬礼し、スーパーを出て「変なヤツ」と吹き出した。

詩月は餌袋を抱えて移動するものと思っていた。

手が空き餌袋がないならと、BALに顔を出した。

詩月が店に入るなり、客やミヒャエル、ビアンカそれにマスターまでもが、詩月を取り囲んだ。

「親父さんはどうなんだ?」

「怪我の具合は?」

口々に聞いてくる。

「命に別状はないし、怪我も心配ないみたいだけど、演奏への影響は未だ判断できないようだ。復帰は暫くないかな」