「庭の千草」狂詩曲

「音楽科ではないんだ。普通科で頑張っている」

「根性あるな。で、ピアニスト志望の彼女ーーたしか緒方だったか。彼女には会ったんだろ?」

ユリウスには詩月がウィーン留学した年のクリスマスイブのピアノ演奏が印象に残っている。

BALと横浜の喫茶店モルダウをオンライン回線で繋ぎ、詩月が横浜で在籍している聖諒学園大学の伝説「ヴァイオリンロマンス」を演奏した。

「緒方は腱鞘炎を悪化させて疲労骨折して、演奏家として……ピアニストとしては無理だと宣告されたそうだ」

ユリウスは言葉がなかった。

「ピアニストは目指せない。でも緒方は前を向いていた。ピアノ教師になるそうだ。資格を取ってピアノ教室の講師になって、ピアニストを育てたいと。応援していく緒方を」

「ーーそうか」

ユリウスは詩月の肩に、そっと手を置いた。

「ユリウス、方向は違っても道は繋がっていると信じていいよな」