「庭の千草」狂詩曲

詩月はクレアとも未だ数分しか話していない。

ウィーンに戻った日の翌朝、ダイニングで話した程度だ。

「例の話は……」

マスターは言いかけてやめた。

「僕からはしません」

マスターは大きく頷いて、満面の笑みを浮かべた。

「詩月、ミヒャエルには連絡入れたよ」

ビアンカがグラスを並べながら、詩月に伝えた。

「そう。ビアンカ、『庭の千草』伴奏は弾けるかな?」

「エッ!?『夏の名残りの薔薇』だよね。ん……自信はないけど」

「取り敢えず弾けるレベルでいい。ヴァイオリンで合わせる」

「詩月、ヴァイオリンはウルトラ級の難曲だよ」

「大丈夫、母の十八番(おはこ)だった」

「クレアさん、何もの?」

「音大生でソリストを目指していたらしいけれど、僕は母の学生の頃を詳しく知らないんだ。このガダニーニを弾いていたことくらいしかね。父は話さないだろうし、ユリウスやエィリッヒなら、知っているかもな」

「マスターは何か知らない?」