「庭の千草」狂詩曲

「いえ、何も。お構いなく」

詩月は事務的に答えて、笑顔を作った。

詩月が機内で帽子を被っているのは窮屈に感じて、ワークキャップを脱いだ。

両隣の乗客が詩月の顔を覗きこみ2度見したが、詩月は全く気づかないふりをした。

日本へ帰国してくる時は隣に安坂貢がすわっていた。

特に何か話したわけではないが、親しい間柄の知り合いが居る。

それだけで安心感があった。

顔見知りの者が誰も居ない孤独感で不安が2倍3倍にもなる。

成田からウィーンまで約14時間。

チケット予約の際。No Thank you Optionーー機内食不要申請し睡眠に徹した。

機内提供のブランケットだけでは寒くて、離陸前にスーツケースから取り出した秋物のコートを羽織った。

うとうとはするものの結局、眠れないまま、ウィーン空港には、現地時間の16時に到着した。