「庭の千草」狂詩曲

「詩月、忘れものはないわね。書類はちゃんと揃っている? 薬は入れた? パスポートは?」

「詩子さん、ありがとう。大丈夫、全部入れた」

詩子は前夜から落ち着かず、荷物のリストを見ながら詩月に2度、3度確認した。

「リハビリは向こうでも続けろよ」

理仁は詩月が風呂上がりに、左足をマッサージしている様子を観て言った。

空港には、詩月の搭乗手続きに通常より時間がかかるため、出発の3時間半前に着いた。

詩月はワークキャップを深めに被り、薄墨色の偏光サングラスをかけ、マスクを着用し、顔を隠している。

医療診断書(MEDIF)、処方箋のコピー、心電図のコピー、心臓ペースメーカー等の説明カードなどの提示、ポータブル医療酸素濃縮器及び充電器の持ち込み申請許可証、ヴァイオリン持ち込み申請など。

詩月は搭乗手続きの列に並んだ渡航者から、苛立ちや愚痴など不機嫌そうな言葉を浴びた。