「庭の千草」狂詩曲

小百合は詩月の瞳を覗きこみ、マジマジと見つめた。

「君は余計なことを思い出すんだな」

詩月はため息混じりに言いながら、ゆっくりと立ち上がった。

「その写真は母がウィーンで学んでいた頃のものだ。母の隣の男性は母の師匠だーー21年前に亡くなった」

理久が詩月の手首をギュッと掴んだ。

「母からガダニーニの『シレーナ』は元々、彼のヴァイオリンで彼の生前、母に託されたと聞いている」

小百合は詩月を見上げ、黙りこんだ。

「彼の目と僕の目の色が同じ……だから血が繋がっているとでも? 僕が生まれる前に亡くなっている男だ。僕にとっては写真の中の見知らぬ男に過ぎない」

「し、詩月くん……」

小百合の声は震えていた。

「家に来た時、あなたの様子はどこか変だったわ。お父さんの怪我がよほどショックだったのかとも思ったけれど、何か他にもと……気落ちするようなことがあったのかと」