「庭の千草」狂詩曲

詩月は自分に向けられた郁子の真剣な眼差しに、
ただならないものを感じた。

「腱鞘炎になって疲労骨折もして、ピアノの練習を休んで、暫く治療に専念しながら考える時間はたっぷりあったわ」

詩月は落ち着いた、しっかりした口調で何を語るのだろうと、まばたきも忘れて郁子をみつめた。

「バイエルンから練習し始めて、1年半でやっとツェルニー ……主治医の先生に言われたの。わたし、元のように演奏できるようにはならないの。難度の高い曲は、もう演奏できないんですって」

「……疲労骨折したと聞いた時、もしかしたらと考えた。君のことだから、それでも懸命に頑張って練習しているんだろうと」

「驚かないのね」

「母を観てきているし、僕自身も腱鞘炎の辛さを知っているからな」

「上級曲を弾けるようになりたい。そう思って無茶をするたび、痛みがひどくなって主治医に何度も叱られて」