「庭の千草」狂詩曲

グランドピアノが1番よく見える席だ。

マスターは詩月が理久の後ろを歩く姿を観て、首を傾げた。

詩月は席に着くと、ピアノに目を移した。

「休み中でも変わらず演奏が絶えないんだね」

「ショパンの『雨だれ』弾きたいのでは?」

「ショパンは人前で弾かないと決めたんだ。あの人が復帰するまでは」

「頑固だな」

「僕がどんなに上手く演奏しても、どんなに上手く完コピしても、今はあの人のショパンを越えられないからね」

詩月はグランドピアノを奏でる学生の演奏を聴きながら、フッと笑った。

理久は運ばれてきたアイス珈琲をグイと飲み、喉を鳴らした。

「やっぱり、マスターの淹れた珈琲が1番ウマイ」

詩月は熱い紅茶をゆっくり啜った。

「珈琲は相変わらず飲まないんだな」

「飲むと動悸がするから」

理久はハッとしバツが悪そうに「そうだったな」と呟いた。