「庭の千草」狂詩曲

約2年半ぶりに訪れたモルダウに、ホッと心が和んだ。

店内の中央にでんと置かれた2台のグランドピアノは2年半前と変わらずに、存在感があった。

詩月は珈琲の芳醇な香りに誘われて、カウンター内で珈琲豆を引くマスターに挨拶した。

「お久しぶりです。色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした」

「変わらないね~。新しいお客さんがたくさん来てくれて、楽しかったよ」

詩月はモルダウに理久の車で、約束の時間の30分前に着いた。

貢は3日後にはウィーンに戻ると言い、貢の都合に合わせて、貢から緒方郁子にも連絡を取ってもらった。

「リリィさんの席はいつも通りだよ。時々、アランが猫を連れてきているよ」

マスターは陽気でゆっくりした変わらない口調で話した。

「いつものでいいんだろ」

理久が詩月に訊ねて、マスターに合図した。

「詩月、かけようぜ」

理久に促されて、窓際の席に着く。