「庭の千草」狂詩曲

彩月の目は赤くなっていた。

「クレアのヴァイオリン。ダフィットがクレアに託したヴァイオリンなの。クレアはあなたがヴァイオリンを弾く姿に、どれだけ励まされたか」

「でも僕は……僕の両親はずっと母さんと父さんだと信じて疑いさえしなかった……周桜宗月が父親だとずっと思っていた」

詩月が抑揚なく淡々と他人事みたいに言うと、詩子と彩月は顔を見合せた。

「親子だから演奏が似ていると言われても、ずっと耐えてきた。ピアニスト周桜宗月を父を越えたい、周桜Jr.とは言わせない。それが目標だったのに……何もかも嘘だった。僕は周桜宗月と血が繋がってさえいなかった。他人だった」

詩月は感情を圧し殺し、声を荒らげもせず、ただ言葉を読書でもしているように、2人の目を見ようともしない。

「クレアはあなたに本当のことを何度も話そうとしたのよ。でも宗月が止めたの」