「それに……プロジェクトのことでも、お話ししたいことがあって」

私は戸惑った。

うそでしょ? クライアントと、プライベートで会うなんて。しかも、担当変更を希望されている相手と……。

「ダメですか?」

そう尋ねる彼の目は、優しかった。責めるような色は、全くない。

「……いえ。ぜひ、ご一緒させてください」

頷く私を見て、篠塚さんはほっとしたような表情を見せた。

「ありがとうございます。それでは、荷物をまとめましょう」

私はノートパソコンをバッグにしまった。

篠塚さんも、映画論の本と万年筆を片付けている。

それにしても、まさかこんなことになるなんて……。

時刻は午後2時20分。

たった10分前までの私とは、何かが決定的に変わり始めていた。