鼓動が、痛いくらいの速さで打ち始める。

どうしよう。声をかけるべき? でも、今はきっとプライベートの時間だろうし。

それに、今朝あんなフィードバックをもらったばかり。担当変更を希望されているのに、顔を合わせたら気まずい……。

頭の中が混乱する。

時計を見ると午後2時10分。

深呼吸をして、落ち着こうとした。

よし。まずは、スマホの画面で髪型をチェックして、それから声をかけよう。

そう思い、バッグからスマホを取り出した……その時──。

篠塚さんが、ページをめくった。

パラリ、という紙の音。

その音に反応して、彼がふと顔を上げた。

そして、私と目が合った。

「あ──」

一瞬、時が止まる。

篠塚さんの瞳が、わずかに見開かれる。認識する驚き。

私は、パニックになった。

手元が狂い、指先からスマホがツルリと滑り落ちる。

「あっ」

まるでスローモーションのように、宙を舞う。

──ゴンッ!

スマホが硬いタイルの床に落ちる、衝撃音。

そして……

──パリィン!

図書館の張り詰めた静寂を切り裂く、薄いガラスが割れる、耳障りな音。

時が、止まった。

チリン、チリン……。

小さなガラス片が、床を転がっていく。