『このタルトは、私が60年間作り続けてきた自慢の一品です。
形は少し不揃いかもしれません。
焼き色にムラがあるかもしれません。
でも、一つ一つ、想いを込めて作っています。
あなたの大切な人と、この温もりを分かち合っていただけたら、これ以上の喜びはありません。
店主 篠塚武男』
「これ……すごくいいです」
私は、思わず篠塚さんの手を握っていた。
「本当ですか?」
「はい。武男さんの人柄が、伝わってきます」
それから私たちは、2時間ほど一緒に作業を続けた。
気づけば、午前1時を過ぎていた。
「今日は、ここまでにしましょう」
「そうですね」
オフィスを出て、二人並んで夜の街を歩く。
冬の夜は冷たくて、息が白くなる。
「藤崎さん」
篠塚さんが立ち止まった。
「諦めないでいてくれて、心から感謝しています」
「当たり前です。私、このプロジェクトを通して、たくさんのことを学びました。完璧じゃなくてもいい。大切なのは、想いを込めることだって」
「藤崎さん……」
「だから、絶対に成功させましょう」
篠塚さんが、私の手を取った。
「はい。一緒に、頑張りましょう」
私たちは手を繋いだまま、駅まで歩いた。
寒い夜だったけれど、心は温かかった。



