午後1時45分。自宅に戻って、鏡の前に立った。

髪型は乱れていないか。メイクは崩れていないか。

ベージュのトレンチコート。白いブラウス。紺色のパンツ。シンプルだけど、きちんとして見える組み合わせ。

「よし」

そう呟くが、その言葉が空虚に響いた。

バッグに、ノートパソコンと篠塚さんからの資料を詰め込む。

篠塚さんからの手紙を、もう一度読み返した。

『私たちの店は、完璧ではありません。ケーキの形が少し歪んでいたり、焼き色にムラがあったり。でも、それが手作りの証です。不完全だからこそ、人の温もりが宿るのです』

「不完全だからこそ、人の温もりが……」

その言葉が、なぜか心に引っかかる。

私は、今までずっと完璧を目指してきた。小学生の時から、テストは常に100点。母に褒められたくて、必死に勉強した。

『あら。希ちゃん、どうしたの? いつもは100点なのに』

95点を取った時の、母の冷たい表情。あの日から私は、欠点を持つことが怖くなった。

完璧でなければ、愛されない。そう信じて、28年間生きてきた。

でも。

「疲れたな……」

誰にも聞こえない声で、そう呟いた。



午後2時00分。市立図書館に着いた。

自動ドアをくぐると、紙とインクの匂い。静かに本を読む人々。ページをめくる音だけが、穏やかに響いている。

文学コーナーの窓側、いつもの席に座った。

ノートパソコンを開いて、篠塚さんの企画書を読み直す。