その夜。家に帰って、私はベッドに倒れ込んだ。心地よい疲労感。
今日一日を振り返る。
映画館で繋いだ手、カフェでの会話。
帰り道、彼が手を温めてくれたこと。
『藤崎さんの手、冷たいんです。いつも』
『気づいてたんですか?』
『はい。ずっと』
あの言葉が、何度も胸の中で反響する。
篠塚さんは、私のことをずっと見ていてくれた。
私も、いつの間にか彼のことばかり考えている。
これは、もう……
「恋だよね」
誰もいない部屋で、初めて認めた。
ただのクライアントじゃない。仕事仲間でもない。
もっと、特別な存在になりつつある──そんな予感。
『プロジェクトが終わったら』
そう彼は言った。
その時、この気持ちにちゃんと名前をつけよう。
今は、ただ全力でプロジェクトを成功させる。
それが、篠塚さんのため。そして、私自身のため。
私は、割れたスマホを手に取る。あの日、図書館で落としたスマホ。
このヒビがなければ、おそらく今の私はなかった。
「ありがとう」
そう呟いて、私はスマホを机の上に大切に置いた。
窓の外では、星がキラキラと輝いている。
明日から、また頑張ろう。チームのみんなと、篠塚さんと。
不完全な私たちで、心が伝わるサイトを作ろう。
そして、プロジェクトが終わったら……。
その先のことを想像して、私は静かに微笑んだ。



