シネマ・リュミエールは、渋谷の路地裏にある小さなアートシアターだった。
レトロな赤い絨毯が敷かれたロビー。壁には、古い映画ポスターが飾られている。
「初めて来ましたけど、素敵な映画館ですね」
「ここは、僕の秘密の場所なんです」
篠塚さんが嬉しそうに言った。
「古い映画を上映してくれるし、お客さんも映画好きが多くて」
チケットを受け取って館内に入ると、そこは50人ほどが入る小さなスクリーンだった。
私たちは、中ほどの席に並んで座った。
「『秋の日の残像』、楽しみですね」
「藤崎さんに、気に入ってもらえるといいんですが」
しばらくして、照明が落ちる。そして、物語が始まった。
スクリーンに映し出されたのは、1960年のフランス。
モノクロの映像が美しく、ポール、マルク、そしてエレーヌの三角関係を描いた物語が展開していく。
エレーヌの自由さ。ポールの優しさ。マルクの葛藤。
そうか。完璧な人なんて、いないんだ……。
映画が進むにつれて、私の心は次第に物語に引き込まれていった。
映画の中盤。エレーヌが海辺を走るシーン。
アームレストに置いた私の手に、何かが触れた。
「っ!」
一瞬、偶然かと思った。
けれど──篠塚さんの小指が、私の小指にそっと絡む。
心臓が、激しく跳ねた。
暗闇の中、そっと顔を向けると、篠塚さんも私を見つめていた。



