「映画……ですか?」
「はい。『秋の日の残像』という、フランスの古い映画です。渋谷のミニシアターで上映されるんです」
篠塚さんが少し照れたように続ける。
「一人で観るより、藤崎さんと一緒のほうが……その、楽しいかなと思って」
「行きます」
私は即答していた。
「本当ですか?」
「はい。ぜひ、ご一緒させてください」
篠塚さんの表情がほころんだ。
「それじゃあ、土曜日の午後1時に、渋谷のシネマ・リュミエールで」
「はい」
店を出て、駅に向かう。秋の夜は冷えていて、二人の息が白く浮かぶ。
「藤崎さん、今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
私たちは、手を振って別れた。
電車に乗って、窓ガラスに映る自分を見た。笑っている。
頬が緩んで、止まらない。
閉店の危機──重い現実を知った今も、不思議と前向きな気持ちでいられる。
それはきっと、篠塚さんと一緒に戦えるから。
こんなに自然に笑ったのは、いつぶりだろう。



