「これ、祖父の写真とか、昔の資料とか。サイトで使えそうなものを持ってきました」
「ありがとうございます」
私たちは窓際の席に座って、資料を広げる。
古い写真。手書きのレシピ。お客さんからの手紙。
一つ一つに、物語があった。
「この写真……」
私は、一枚の白黒写真に目を奪われた。若い武男さんと、笑顔の女性。
「祖母です。結婚式の日の写真。祖父は、この日のことを今でも鮮明に覚えているそうです」
篠塚さんが静かに言った。
「祖母は、この店を一番愛してくれていた。5年前に亡くなった時、祖父は店を畳もうとしたんです。でも、祖母の遺言があって。『あなたの作るお菓子で、たくさんの人を幸せにして』って」
篠塚さんの声が掠れた。
「だから、祖父は今も店を続けている。祖母との約束を守るために」
その話に、視界が滲んだ。
「あの……この写真、サイトで使わせてください」
「本当ですか?」
「はい。武男さんとお祖母様の愛の物語。それが、この店の原点なんですね」
篠塚さんが深く頷いた。
私たちは、それから1時間ほど、資料を整理した。どの写真を使うか。どんなストーリーを語るか。
話しているうちに、サイトの全体像が見えてきた。
ふと、篠塚さんが手を止めた。
「藤崎さん」
真剣な表情。いつもの穏やかさが、どこか曇っている。
「はい?」
「実は……あなたに、話しておかなければならないことがあります」
篠塚さんが、コーヒーカップを両手で包んだ。



