「表情に出てるよ」
沙紀がサラダを食べながら言った。
「で? 何に悩んでいるの?」
私は、正直に話した。
「心が伝わるサイト」と「機能性」の両立について。武男さんの想いをどう形にすればいいのか、わからないこと。
沙紀は時折頷きながら、静かに聞いてくれていた。
「なるほどね。希ちゃん、まだ『正解』を探しているでしょ」
「え?」
「そんなものはないよ。希ちゃんが作るしかないの」
その言葉に、はっとした。
「正解がないなら、自分で作る。希ちゃんが感じたものを、形にするだけ」
「でも……」
「希ちゃん、昔と変わってない。いつも、誰かの期待に応えようとして。希ちゃん自身は、何を作りたいの?」
沙紀に聞かれるも、言葉が出ない。
「……っ、私は……」
「自分が、心から『これを作りたい』って思えるものを作りなよ。それが一番、相手に伝わるから」
沙紀が穏やかに笑った。
「希ちゃんは、もっと自分を信じていいんだよ」
その言葉が、胸に響いた。
◇
午後。私はデスクに戻って、もう一度考え直した。
「私が、作りたいものは何か……」
目を閉じて、昨日のことを思い返す。
武男さんの笑顔。タルトの味。古い写真。店の空気。
そして、篠塚さんの言葉。
『藤崎さんの心が「これだ」って思うものを作ってください』
「そうだ……」
私は、ノートを取り出して、ペンを走らせる。いつものようにパソコンではなく、手書きで。



