不完全な私を愛してくれたのは、年上の彼でした



「藤崎さん。すぐに答えを出さなくてもいいんです」

篠塚さんが静かに言った。

「ゆっくり考えて、感じて。そして、藤崎さんの心が『これだ』って思うものを作ってください」

「ですが、期限が……」

「大丈夫です。僕は、藤崎さんを信じていますから」

その言葉に、目頭が熱くなった。

「ありがとうございます」

駅に着いた。

「それじゃあ、また連絡しますね」

「はい。お待ちしています」

電車に乗って、窓の外を眺めながら、私は今日のことを振り返った。

武男さんの笑顔。篠塚さんの優しさ。店の空気。

「これを、何としてでも形にしたい」

私は、強くそう思った。



火曜日。朝からオフィスに籠もって、新しい提案を作り始めた。

だけど、何度作ってもしっくりこない。

「やっぱり違う……これじゃない」

3時間かけて作ったデザインを、泣く泣く削除する。

洗練されたデザインを作ろうとすると、武男さんの店の魅力が失われてしまう。温もりが感じられるデザインを作ろうとすると、機能性が犠牲になる。

どうすれば、両立できるんだろう……。

私はデスクで頭を抱えた。



「希ちゃん」

昼休み、同期の沙紀が声をかけてきた。

「お昼、まだでしょ? 一緒に食べようよ」

オフィス内のカフェテリアで、私は沙紀と向かい合って座る。

「ねえ、希ちゃん。今、悩んでいるでしょ?」

沙紀がストレートに聞いてきた。

「うん……」

「もしかして、パティスリー・ルミエールの件?」

「どうして……」