「藤崎さん。すぐに答えを出さなくてもいいんです」
篠塚さんが静かに言った。
「ゆっくり考えて、感じて。そして、藤崎さんの心が『これだ』って思うものを作ってください」
「ですが、期限が……」
「大丈夫です。僕は、藤崎さんを信じていますから」
その言葉に、目頭が熱くなった。
「ありがとうございます」
駅に着いた。
「それじゃあ、また連絡しますね」
「はい。お待ちしています」
電車に乗って、窓の外を眺めながら、私は今日のことを振り返った。
武男さんの笑顔。篠塚さんの優しさ。店の空気。
「これを、何としてでも形にしたい」
私は、強くそう思った。
◇
火曜日。朝からオフィスに籠もって、新しい提案を作り始めた。
だけど、何度作ってもしっくりこない。
「やっぱり違う……これじゃない」
3時間かけて作ったデザインを、泣く泣く削除する。
洗練されたデザインを作ろうとすると、武男さんの店の魅力が失われてしまう。温もりが感じられるデザインを作ろうとすると、機能性が犠牲になる。
どうすれば、両立できるんだろう……。
私はデスクで頭を抱えた。
◇
「希ちゃん」
昼休み、同期の沙紀が声をかけてきた。
「お昼、まだでしょ? 一緒に食べようよ」
オフィス内のカフェテリアで、私は沙紀と向かい合って座る。
「ねえ、希ちゃん。今、悩んでいるでしょ?」
沙紀がストレートに聞いてきた。
「うん……」
「もしかして、パティスリー・ルミエールの件?」
「どうして……」



