それから、2時間。
私は武男さんの話を聞き、厨房を見学させてもらい、過去の写真を整理した。
古いアルバムには、お店の歴史が詰まっていた。
開店当初の小さな店。少しずつ大きくなっていく店舗。常連客との写真。地域のイベントでの出店。
一枚一枚に、物語があった。
「この写真、使えませんか?」
私は、一枚の写真を手に取った。武男さんが、小さな女の子にケーキを渡している写真。女の子は、満面の笑みでケーキを見つめている。
「ああ、これは……」
武男さんが懐かしそうに目を細めた。
「近所の子でね。毎週、お小遣いを貯めて買いに来てくれたんだ。もう、40年以上前の話だけど」
「この笑顔……素敵です」
「そう言ってもらえると、嬉しいね」
その後、私はたくさんの写真を撮らせてもらった。
武男さんの手。生地をこねる様子。オーブンの中で焼けていくタルト。
プロのような写真じゃない。ブレているものもある。でも、そこには確かに「生きている瞬間」があった。
◇
夕方。店を出る時、篠塚さんが駅まで送ってくれた。
「今日は、ありがとうございました」
夕暮れの住宅街を、二人で歩く。
「藤崎さん、どうでしたか?」
「すごく、心に響きました。武男さんの話を聞いて、この店がどれだけ愛されているか、よく分かりました」
「良かった」
篠塚さんがほっとした表情を見せた。
「でも、それをどう形にすればいいのか、まだわからないんです」
私が立ち止まると、篠塚さんも足を止めた。



