それから、2時間。

私は武男さんの話を聞き、厨房を見学させてもらい、過去の写真を整理した。

古いアルバムには、お店の歴史が詰まっていた。

開店当初の小さな店。少しずつ大きくなっていく店舗。常連客との写真。地域のイベントでの出店。

一枚一枚に、物語があった。

「この写真、使えませんか?」

私は、一枚の写真を手に取った。武男さんが、小さな女の子にケーキを渡している写真。女の子は、満面の笑みでケーキを見つめている。

「ああ、これは……」

武男さんが懐かしそうに目を細めた。

「近所の子でね。毎週、お小遣いを貯めて買いに来てくれたんだ。もう、40年以上前の話だけど」

「この笑顔……素敵です」

「そう言ってもらえると、嬉しいね」

その後、私はたくさんの写真を撮らせてもらった。

武男さんの手。生地をこねる様子。オーブンの中で焼けていくタルト。

プロのような写真じゃない。ブレているものもある。でも、そこには確かに「生きている瞬間」があった。



夕方。店を出る時、篠塚さんが駅まで送ってくれた。

「今日は、ありがとうございました」

夕暮れの住宅街を、二人で歩く。

「藤崎さん、どうでしたか?」

「すごく、心に響きました。武男さんの話を聞いて、この店がどれだけ愛されているか、よく分かりました」

「良かった」

篠塚さんがほっとした表情を見せた。

「でも、それをどう形にすればいいのか、まだわからないんです」

私が立ち止まると、篠塚さんも足を止めた。