『篠塚さんへ
本日は、お時間をいただき、ありがとうございました。
図書館でスマホを落とした時、世界が終わったような気がしました。
でも、あれは終わりじゃなく、始まりでした。
篠塚さんのお話を聞いて、私は気づきました。
私は、ずっと「正しさ」を追い求めていました。
完璧なデザイン。完璧な機能。完璧な自分。
だけど、それは誰も求めていなかったのかもしれません。
「人の心」その言葉が、今も胸に響いています。
月曜日、お店に伺います。
そして、篠塚さんの求める「人の心」を、自分の目で見て、心で感じたいです。
必ず、成功させましょう。
手書きで失礼いたします。
藤崎希』
手紙を書き終えて、静かに息をついた。
手で書くって、デジタルでは味わえない特別な体験。
書き終えた便箋を封筒に入れて、宛名を書く。
明日、ポストに投函しよう。
窓の外では、星が一つ、二つと輝き始めている。
「明日から、変わろう。少しずつ」
私は、割れたスマホを見つめる。
このヒビがなければ、篠塚さんと話すことも、本当の私に気づくこともなかった。
非の打ちどころのない私の仮面は、このガラス片と一緒に床に散らばった。でも、その下から現れた本当の私は、もう誰にも縛られない。
ベッドに入って、そっと目を閉じる。
45分間。たったそれだけの時間が、私の運命を変え始めた。
月曜日、新しい一歩が始まる。
完璧じゃないけれど、人の心を感じられる私が。
窓の外から、秋の夜風が優しく吹き込んでくる。
私は静かに微笑んで、眠りについた。



