カフェを出ると、秋の午後の光が優しく私たちを包んでいた。
「それじゃあ、月曜日に」
篠塚さんが穏やかに笑う。
「はい。お店の住所、メールで送ってください」
「わかりました」
私たちは、そこで別れた。
帰り道、私は割れたスマホの画面を見つめる。
蜘蛛の巣状のヒビの向こうに、夕暮れの空が映っている。
不完全な画面。けれど、そこには確かに美しい空が映っている。
オレンジ色に染まる空。雲の形も不揃いで、色のグラデーションも均一じゃない。
でも、だからこそ、心を動かされるんだ。
コンビニの前を通りかかった時、文房具コーナーが見えた。
「手紙、書いてみようかな」
そう思った私は店に入り、便箋と封筒を手にレジへと向かった。
◇
家に着いて、私は窓を開けた。冷たい秋の夜風が、部屋に流れ込んでくる。
私は机に向かって、買ったばかりの便箋を取り出した。
ペンを握る。万年筆じゃない、普通のボールペン。
スマホではなく、手で書くということ。それだけで、何かが違う。
一文字一文字、想いを込めながら私はペンを走らせる。



