しばらくして、コーヒーが運ばれてきた。
白い陶器のカップに注がれた、深い茶色の液体。芳醇な香りが湯気とともに立ちのぼる。
一口飲んだ瞬間、温もりが体に染み渡るようだった。
「……美味しい。コンビニの缶コーヒーとは、まるで別物です」
「でしょう? 店主が、一杯一杯丁寧に淹れてくれるんです。豆の選定から、焙煎、抽出まで」
篠塚さんが身を乗り出した。
「効率を考えたら、エスプレッソマシンを使った方が早い。だけど、店主はあえて手で淹れる。時間はかかるけれど、そこに心がこもる」
私は、コーヒーカップを見つめた。
「毎回、微妙に味が違うかもしれない。でも、だからこそ人の手が感じられる」
篠塚さんの言葉が、心に染み込んでくる。
「藤崎さんの作るサイトは完璧ですが、そこに『人』が感じられないんです」
胸に突き刺さる言葉のはずなのに、不思議と痛みはなかった。
むしろ、ずっと聞きたかった言葉だった気がする。
「さっきは、本当に申し訳ありませんでした」
篠塚さんが改めて頭を下げる。
「実は僕、気づいていたんです。藤崎さんが隣にいることに」
篠塚さんは、真剣な表情で私を見つめた。
「だけど、プライベートの時間だし、声をかけるべきか迷っていて。それで、藤崎さんを緊張させてしまったんだと思います」
彼の正直な言葉に、私は言葉を失った。
「だから、責任は僕にあります。スマホの修理代、負担させてください。それから……」
篠塚さんは、少し照れたように笑う。



